IPPI STYLE
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短編 原っぱ
 穏やかな日和。
 ぽかぽかな陽気が草木の蒼を映えさせる。
 小川のせせらぎが空気に清涼感を与え、小鳥のさえずりが空に舞う。
 温かな風は首筋をなぞったかと思えば、すぐに遠くへ逃げていった。
 緑の大地へ身体を転がす。
 チクチクとした草の感触がくすぐったい。
 でも、それを心地よいと感じている自分もいる。
 全身で感じる、ひんやりとした土の匂い。
 風に乗って運ばれてくる草花の香り。
 視界いっぱいに広がる空の青。
 風と一緒に漂う雲の流れを眺めていると、不思議と安心感を覚える。
 陽の光によって身体が内側から温められていくのがわかる。
 癒しの空間が、ここにあった。

 都会の喧騒も、雑踏も、煩わしい人間関係も、私はいらない。
 道端に投げ捨てられたゴミ。
 排気ガスによるスモッグ。
 電車や自動車の騒音。
 つまらない人間たちのケンカや言い争い。
 それらを全て機械の街へ置いて。
 それは私がずっと願っていたこと。
 自分のことで精いっぱいで。
 他人のことなんて考える余裕もなくて。
 周りを蹴落として生き残るだけの社会。
 助け合いなんて上辺だけ。
 利害や損得が全てを支配する、灰色の世界。 
 それに堪え切れなくて、私は逃げ出したんだ。

 私らしい私を取り戻すために。
 本当の私を思い出すために。
 電車に乗り、車に乗り、最後には歩いて。
 色んな人に会った。
 若い男性、子供連れの女性、老夫婦。
 みんな、それぞれに輝きを持っていて、私は胸が震えた。
 だから、私は歩いた。
 気持ちのぶつける先がわからなかったから。
 それは間違っているのかもしれない。
 でも、私は構わない。
 そうして、歩いて、たどり着いた先が、この場所だ。
 物珍しいものは何もない。
 でも、不思議と心は満ち足りた気持ちになっていた。
 
 だから、今だけは――。
 この輝かしい世界の中で、ゆっくりと眠りたいと思う。
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短編 訪問者
 時計の針は深夜一時を回っていた。
 私はテレビの電源を切って、寝る準備に入る。
 喉の奥から湧き上がる欠伸を噛み殺して、よろよろと立ち上がった。
 眠い眼をこすりながら、洗面所へ向かう。
 歯を磨きながら、明日のことを考える。
 日付が変わっているから正確には今日だとか、そういうことを考えられるほど頭も回っていない。
 もう寝よう……。
 そのままリビングへ戻って明りを消す。
 部屋の中はすぐに真っ暗になった。
 そして、そのままベッドルームへ向かおうとした瞬間――。
 何かの電源が入る音がした。
 青白い光が不気味に部屋の中を照らし出す。
 恐る恐る振り返ってみると、テレビの画面が激しく点滅いていた。
 しかし、さっきまで流れていたコマーシャルの面影はない。
 ただひたすらに、青と白の画面が交互に繰り返すばかりだった。
 私は気味悪く思いながらも、テレビのリモコンに手を伸ばす。
 電源ボタンを押すが、画面は消える気配はない。
 何度も何度も繰り返してみるが、結局無意味だった。
 私はリモコンをテーブルの上に投げ捨て、主電源を消す為にテレビへと近づく。
 電源ボタンを押してみるが、相変らず画面は消灯する気配がない。
 眠気はとうに失せ、焦りが私の中に激しく渦巻く。
「な、何で消えないのよっ」
 恐怖に駆られ、私はテレビから離れる。
 そして脇に見えたテレビのコードに目が向いた。
 私はためらいなくコードを引っ張り、コンセントを引き抜く。
 テレビの画面はぷつりと明りを失った。
 私も安堵の息を吐く。
 なんだか、一気に疲れが溜まった気がする。
 もう、早く寝ないと……。
 安心したせいか、急激に眠気が襲ってくる。
 そして再び背中を向けた時――あの音が耳をくすぐった。
「そんな……コンセント抜いたのに……」
 さっき確かに消したはずなのに。
 それでもテレビは再び青と白の光を交互に放っていた。
 私はその場に崩れ込む。
 もう眠気も、立ち上がる気力もない。
 光の点滅が、少しずつ早くなってくる。
 青、白、青、白、青、白、青、白、青、白――。
 感覚がわからないくらいに激しく点滅していく。
 そして、画面が砂嵐のように粗く乱れた。
 画面には見知らぬ光景が瞬時に浮かび上がる。
 暗闇の中にひっそりとたたずむ、新築のマンション。
 その造形に、どこか見覚えがあった。
 画面に映る映像は玄関をくぐり、オートロックの自動ドアにたどり着く。
 自動ドアは不思議と開き、そのままエレベータへ。
 間違いなく――私の住むマンションだった。
 背筋がゾッとする。
 自分の腕を強く抱きしめながらも、私の視線はテレビへと吸い寄せられる。
 エレベータが開き、廊下に出る。
 何かにすがりたくなって、近くにあったクッションを抱きしめた。
 画面に、私の部屋の玄関が映し出される。
 ドアに手を伸ばすと、ひとりでに鍵が開いた。
「――嘘よ……」
 思わず玄関へと顔を向ける。
 私は帰ってきてから鍵をしっかりかけたはずだ。
 そして、チェーンもしっかりとかけて……。
 しかし、目の前に移る映像からはそんな様子も感じられなくて。
 何者かの足音が聞こえた。
 それは、テレビのスピーカからなのか、本物なのか、まったくわからない。
 でも、何かが近づいてきているという感覚はわかった。
 そして――。
「きゃあぁっ――!」
 か細い悲鳴が、防音の壁に静かに吸収される。
短編 チキンと紅茶
 手にした鶏肉からは香辛料のスパイシーな香りが立ち上っていた。
 一噛みすれば、パリッと表皮が裂け、内の柔らかな肉が姿を現す。
 噛み締めるごとに、肉汁が口内へと流れ出すのがわかった。
 凝縮された旨みが油と絡み合い、口の中に広がっていく。
 顎を動かせば、皮と肉、二つの食感が口の中で解ける。
 数回咀嚼した程度だが、私の身体はそれを更に求めていた。
 私の舌が喉の奥――私の身体の更に奥へと流し込もうと動きだす。
 口の中が空っぽになる前に次の一口を求める。
 手の動きが止まらない。
 指先が油で濡れるのもいとわずに、私は食べ続けた。
「ふぅ~っ」
 一通り食べ終え、私は深く息を吐く。
 口の中に、まだスパイスの香りが残っているみたい。
「は~い、お茶持ってきましたよ~」
 トレイにグラスを乗せて、莉子が帰ってくる。
「あら、もう食べちゃったんだ」
「あはは……ごめんごめん」
 莉子は私の隣の席に着くと、グラスを渡す。
 グラスの中には褐色の液体。
 ストローを挿すと、氷がカランと音を立てた。
「あ、紅茶なんだ」
 口内の油を洗い流すように吸い上げた液体は紅茶だった。
 色合いから珈琲か烏龍茶かなとも考えたけど、ちょっと意外だ。
 まぁ、私も莉子に任せておいて、アレなんだけど。
「うん。わたしのコレだし、早いかな~って」
 そう言って見せたのはレモンの入った同じグラス。
 確かに、早いはずだ。
「それにしても、チキンなんてよく入るね」
 莉子はテーブルの上に置かれているチキンの包み紙を見て言う。
 そういえば、結構な量あったような……。
「あははは、私、お腹すいちゃってて」
 誤魔化すように私は頭をかく。
「そう? 前はそんなに食べる方じゃなかったような――」
「うぐっ――それは……」
 莉子の指摘に、私は息を呑む。
 何かいい言い訳はないか、必死に頭を働かせる。
 これだけは絶対バレてはいけない。
 バレたら怒られるとか、そういうレベルじゃない。
 最悪、警察ものだよ……。
 いくら双子だからって、入れ替わりで学校行くなんて、やっぱり無茶だったんだよ。
 いや、授業終わったらそのまま用事があるからって帰ればよかったのか。
 怪しまれないようにと、誘いに乗るんじゃなかったよ……。
 苦し紛れに視線を巡らす。
 壁のメニューにヘルシーな野菜サラダという項目を見つけた。
 ヘルシー……ダイエット?
 莉子がこちらを見つめている。
 沈黙を貫ける時間も、もう限界だった。
「その、ダイエット終わったから――」
 震える声で、なんとか言葉を返す。
「あ、そっか~。おめでと~」
 莉子の気楽な返事に、私は安堵の息を吐く。
 はぁ、早く今日が終わらないかな……。
短編 おまじない
 2時限目後の休み時間。
 緊張から一気に解放された生徒達の喧騒が教室中に広がる。
 私は席に着きながら、友達の由佳と談笑をしていた。
「それで、彼氏がね――」
 由佳が毎度のことながら、彼氏の愚痴をこぼす。
「そうなんだ、ひっど~い」
 私もいつものように頷いてみせる。
 由佳はいつも文句を言ってるみたいだけど、実際はとても仲がいいみたい。
 まだ彼氏がいない私にとって、羨ましい反面、妬ましくもある。
 あぁ、私も早く彼氏できないかな。
「ねぇ、今度誰か紹介しようか?」
「へ?」
 突然のことに、私は気の抜けた声を上げる。
「いや、チヨが彼氏欲しい~って顔、してたから」
「嘘っ、そんな顔してたっ!?」
 慌てて顔を押さえる私。
 それを見て、由佳は大げさに笑いだす。
「冗談だって。本気にしちゃって。チヨ、面白い」
「もう、由佳ってば――」
 他愛ないじゃれあい。
 それはそれで楽しいのだけど。
 やっぱり、彼氏欲しいなぁ。
「あ、でも本当は隠れてこそこそ付きあってたりしてるんじゃないの?」
 意地悪そうに尋ねてくる由佳。 
「ないないない。いたら由佳にも教えるってば」
「お~い、由佳~」
 廊下から他のクラスの女子が声をかけてきたのがわかった。
 さすが人気者は違うなぁ。
「そっか。じゃあ、彼氏できたら後で教えてね」
 そう言うと由佳は席を立って廊下へ向かっていく。
 私はその背中を見送りながら、深く息を吐く。
 確かに、今の私には彼氏なんていないけど……。
 私はペンケース内の消しゴムを手に取った。
「……叶うかな?」
 自然と口元が緩む。
 消しゴムに好きな人の名前を書いて、誰も知られぬように使いきる。
 そうすれば、その人と両想いになれる。
 子供染みたおまじない。
 根拠なんて、全然ない眉唾物だけれど。
 それでも信じたいというのは、私のちょっとした乙女心かな。
「さて、次の授業は……」
 ペンケースに消しゴムを仕舞う。
 ようやく角が取れた程度の消しゴムを使い切るには、もうしばらくかかりそうだ。
「早く、なくならないかな……」
 彼氏は欲しいけど、やっぱり好きな人と、結ばれたい。
 だって、私も女の子だもの。
短編 バス停
 水溜りを避けて歩く。
 右腕には、最近購入したお気に入りのバッグ。
 左腕には、コンビニで買ったビニル傘。
 身体を新品のスーツで包んで、会社への道を歩んでいく
 履き慣れないヒールは、どうも歩きにくくて適わない。
 ようやくたどり着いたバス停のベンチに、ためらいなく腰掛ける。
 道行く人の流れは、普段にも増して忙しない。
 朝早くから雨が降ったり止んだりを繰り返す、不安定な天気が原因だろう。
 天を仰げば、空は曇天模様で、まだ薄暗さが残っている。
 風もどこか冷たい。
 また雨が降りだすのも時間の問題かもしれない。
 車の行き来も盛んになり、バス停にも人が集まってくる。
 ネクタイにスーツ姿の男性、ブレザー姿の女子校生に腰の曲がったおばあさんまで。
 急に停留所内が華やかになる。
 バスの到着予定時間まで、あと数分。
 私はバッグを開けて、定期を取り出そうとする。
「あれ?」
 しかし、いくら探しても見当たらない。
 前で立ち話をしていた女子校生たちの視線が、ちらりとこちらを向く。
 だが、すぐに興味を失ったのかまた話に興じ始めた。
 奇異の視線にさらされるよりは幾分いいのだけど、それで問題が解決するわけでもない。
 私はそのままバッグの中を探し続ける。
 化粧ポーチに、間食用のお菓子、財布など、諸々見当たりはするが目的の品が見つからない。
 もしかしてと財布の中にも目を向けてみるが、やはりない。
 今朝の家での行動を思い返してみる。
 ベッドから起きて、洗面所へ向かったのは覚えている。
 そしてリビングで朝食を摂って、そのままメイクして……。
 今日の運勢とか、ニュース番組を見て、それで終わりだったはず。
 バッグを手にしたのは出かける寸前で、中身を確認してなかったような。
 ……これって、本当にヤバいかも?
 家に帰ってから今日家を出るまで、バッグには一切触っていない。
 ということは、家の外で落とした可能性もあるってことで……。
「――最悪だぁ……」
 人目もはばからず、私は頭を抱えてしまう。
 バスもそうだけど、その先の電車もどうするか。
 半年分、まとめて購入したのに……諭吉さんが何人も……。
 悔やんでも悔やみきれない。
「あの……」
 男性に声をかけられ、頭を上げる。
「あなたは――」
 そこに居たのは、今年入社したばかりの、後輩の男の子。
「これ、先輩のじゃ……ないですか?」
 差しだされた手に乗っていたのは、私の定期。
「本当にありがとう、えっと……」
 定期を受け取りながら、彼の目を見つめる。
「あ、遠藤です。営業やってます」
「遠藤君ね、これからよろしく」
 ――それが、私と彼との出会いだった。
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