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短編 ファストフード店員の憂鬱
 駅前ということもあり、私がアルバイトをしているファストフード店は絶えず賑わっていた。
 もうじき夕方の五時を回る。
 昼のピーク時ほどではないが、学生やら帰宅途中の会社員やらの入店が多くなるので、全然気が休まらない。
「いらっしゃいませ」
 私は悪態を胸の中へ押し込み、抜群の営業スマイルで注文を受ける。
「え~っと……」
 目の前に立つのは、白髪混じりの頭をした男性の老人だった。
 老人は目を細めて、カウンターのメニューを眺める。
「……えっとなぁ」
 老人が震える指をメニューに這わせる。
 しかし歳のせいだろうか、その動きはひどく緩慢で見ているこっちにも徐々に苛立ちが募る。
 ただでさえ、忙しくなる時間帯だ。
 この老人の相手をしていたら、他のレジカウンターの負担が多くなる。
 何気なく、老人の背後に目をやる。
 そこにはスーツ姿の男性、更にその後ろには男子学生たちが並んでいた。
 心なしか、みんな苛立っているように見える。
 しかも、隣に並んでいる列は順調にお客さんが減っている。
 苛立つのも当然か。
「早くしろよ……」
 とうとう痺れを切らしたのか、老人のすぐ後ろに立っていた男性が悪態をついた。
 よくぞ言ってくれたと思う半面、面倒事は起こさないでほしいという思いでいっぱいだった。
「少しくらい、我慢せい」
 老人が後ろを向いて男性に食ってかかる。
「なんだよジジイ、アンタのトロトロした動きで後ろがどれだけ迷惑してるかわかってんのかよ!」
 あぁ、やっちゃった。
 これじゃあ、もう手遅れかも。
 この老人も早くメニュー決めちゃってくれないかな。
 ていうか、隣のレジからの視線がメチャクチャ怖いんですけど。
「あ、あのぉ、お客様? メニューの方をお渡ししますので、お決まりになってからお並びください」
 私は引きつりそうな笑顔のまま、老人にメニューを差し出す。
 しかし、老人はそれが気に触ったのか、今度は私に向けて因縁をつけてきた。
「なんじゃ、アンタもワシがとろいジジイだと思うのか! これだから最近の若い者はなっとらん!」
 なってないのは、お前の社会常識だという言葉を寸前のところで呑みこみ、私はすいませんと頭を下げる。
 結局、老人は何も買わずに、怒った様子でそのまま店を後にした。
 来るのは別にかまわないけど、この時間帯にはやめてほしい。
 ――本当に。
 目の前に先程の男性が着く。
 表情が強張っているのは間違いなくさっきの老人のせいだろう。
 でもパッと切り替えないと。
 さて、仕事仕事。
「いらっしゃいませ、何に致しましょうか?」
 私は男性に向けて、営業スマイルを振りかけた。
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短編 追いかけっこ
 暑苦しかった夏も過ぎ、世界が涼を覚え始めた頃。
 衣服も長袖へと衣替えが始まる季節。
 ――そう、秋だ。

 先月までは暑くてお昼寝もできなかったけど、今日は絶好のお昼寝日和……。
「あいたっ」
 何事かと思って目を開くと、そこには上司の顔。
「あ、おはようございます」
 しかし、上司は答えない。
 にこにこと笑っているばかりだ。
 その顔をじぃっと見ること数秒。
「あぁ、仕事でしたね」
 手をポンと叩き、自ら納得する。
 上司の溜息が聞こえたけど、気にしない気にしない。
 それでもって、私の仕事だけど……。
「きゃっきゃっ」
 ホールで遊びまわっている子どもの回収だ。
 私は大きく伸びをすると、ふらふら~っと子どもたちの元へと近づく。
「は~い、大人しくしててね~」
 手近なところに居た男の子を抱え上げようとする。
「やーっ」
「あらあら」
 しかし、すぐに男の子は遠くへ走っていってしまった。
「どうしましょう?」
 振り向くと、遠くから上司が睨んでいるのが見えた。
 私はとりあえず手を振ってみた。
 今度はがっくしと肩を落としている。
 何だかよくわからないけど、お仕事を続けることにする。
「待って~」
「や~っ」
「こっちおいで~」
「きゃはははっ」
 こうして追いかけてみて、わかったことだけど。
 子どもって、足が速いのね。
 でも、何だか楽しいし、いっか。
 そして数分後。
「捕まえた~」
 ようやく一人。
 小さい女の子をゲット。
 特に騒いだり泣いたりしない、大人しい子。
 これはきっと、大和撫子に育つわ。
 ……断言はできないけど。
「やーっ」
「待って~」
 次いで、男の子を追いかけて回る。
 でも中々捕まらない。
 将来はきっとアスリートか何かかしら?
 そんなことを思いながら腕を伸ばすが、呆気なく空を切る。
 せっかく掴んだと思ったら、実はカーテンだったり、元気なのはいいけど、元気すぎるのも困りものね。
「ねぇ、待ってよ~」
「やーだー」
 いつものことだけど、中々仕事が進まない。
 そして今日も、あとで上司から怒られるんだろうな。
 怒っても損するだけだっていうのにねぇ。

 そして数十分後。
 予想通り、私は上司に怒られるのだった。
短編 JUMP
「早くっ! 急いでっ!」
 俺は屋上への階段を駆け上がりながら、前を走る二人の女性に呼びかける。
「もう、そんなこと言ったって……」
「アタシ達、女の子なんだから……」
 さすがに5階分の距離を一気に上るのはキツイか。
 でも、今はそんなことで弱音を吐いている場合ではない。
 もう、すぐそこまで追手が迫っているのだ。
「もう少しですから、頑張ってください!」
 俺は一度足を止め、階下の様子をうかがう。
 荒い息に混じって、気を立てた声が聞こえてくる。
 条件は相手も同じだったらしい。
 頑張れば、何とか逃げ切れそうだ。
 ――瞬間、金属が擦れる音が聞こえた。
 顔を上げると、屋上の扉が開かれていた。
 暗く縁取られた世界に、青空が差し込んでくる。
「ほら、君も早く!」
 女性の一人が、こちらに向けて手を差し伸べる。
 その時スカートの中身が見えそうになって、俺は視線を外しながら残りの階段を上る。
 屋上は寂れた印象で、特に遮蔽物もなく、防護用のフェンスも設置されていなかった。
 背後から聞こえた足音に反応して、とっさに扉を閉める。
 重い金属音が耳に響いたが、気にしている余裕はない。
 次いで、周りを見回す。
 何か、使える物は――。
「あのっ、これを……」
 女性の一人が差しだしたのは、物干し竿だった。
 表面が剥げ、サビが散見されるが、この程度なら問題ない。
 何故、それがここにあるのかはわからないが、助かった。
「ありがとうございます」
 俺は物干し竿を受け取り、ドアノブに引っかける。
 簡易のカンヌキの完成だ。
 その直後、ドアが前後に揺さぶられる。
 瞬時に心臓が大きく飛び跳ねた。
 しかし、相手はドアを開けられる程の勢いはないらしい。
 2、3回それを繰り返した後に、罵倒へと変わった。
 物干し竿は大きく歪み、軋みを上げていたので助かる。
 しかし――。
「ねぇ、これからどうするの?」
「もう疲れたぁ。お腹減ったぁ」
 逆に言えば、屋上に閉じ込められてしまったというに等しい状況。
 このまま相手がビル内に籠城してしまうと、結果的に俺たちも兵糧攻めを食うことになる。
 何か、何か無いだろうか?
「あっ、危ないよっ?」
「ありがとうございます。でも、大丈夫です」
 女性の言葉にお礼を返し、俺は屋上の縁へと歩んでいく。
 そこから見えたのは、ほぼ密着に近い距離に立てられた隣のビル。
 高さ的には1.5メートルくらい低い。
 距離は……1メートルないくらいか。
 下をのぞいてみると、細い路地になっているようで、ゴミらしきビニル袋が溜まっている。
 落ちても――いや、この高さならまず無理か。
「ちょっと、君! 何かヤバそうなんだけど――」
 近づいてきた女性に促され、指差された方向を見る。
 相手方は痺れを切らしたのか、ドアを乱暴にこじ開けようとしていた。
 ――時間が、ない。
 俺は意を決して二人に提案した。
「あの――跳びましょう!」
短編 避暑地にて
 暦の上では春だったが、実質気温は夏と相違ない暑い日が続いていた。
 そこで、晴行は連休を利用して避暑地に出かけることにしたのだが……。

「本当に良かったんですか? 私なんか連れてきてもらって……」
 周囲を見回しながら尋ねたのは、可憐な少女だった。
 見た所、年齢は晴行と同じくらいの齢。
 察するに同級生というところだろう。
「何か、ご不満でもございましたでしょうか、お嬢様?」
 男の言葉に、少女は首を横に振る。
「お嬢様だなんて、そんな……私よりも、もっと適した人がいらっしゃったと思うんですけど」
 申し訳なさそうに、少女は答える。
 その言葉に嘘はなさそうだ。
「いえ、晴行様の御指名でしたので、間違いないかと」
「晴行君が?」
 少女は顔を晴行様の方へと向ける。
 それに気付いてか、晴行と呼ばれた少年も視線を返した。
「おい、何で話してるんだよ!」
「話すな、と言われていませんでしたので」
 男はサラッと言い流す。
「晴行君、本当なの?」
 少女の言葉に、少年は顔を真っ赤にする。
「晴行様、顔が真っ赤ですよ。日焼けでも致しましたか?」
 男はどこから取り出したのか、少年の頭上に日傘をかざす。
「おい、お前……わざとやってるだろ?」
「わざと? 何のことでしょうか?」
 少年の言葉は、正に馬の耳に念仏。
 男は本当に意味がわかっていないらしく、首を傾げ、深く考え込んだ。
 そして数秒後。
「申し訳ありません、私、考え違いをしておりました」
 その様子を見て、少年はムスッとした表情で言う。
「わかったなら、これからはキチンと考えて言葉を――」
「お嬢様、晴行様はお嬢様と一緒にデートがしたいと申しておりましたので、こうしてお誘いしたのでございます。今まで黙っていて、申し訳ありませんでした」
 男は深く頭を下げた。
「――へっ?」
 少女は呆気にとられた表情で、それを見ている。
「な、な、な……」
 少年は、もう噴火間近の火山のようだった。
「どこか、違いましたか?」
 男は頭を上げて尋ねる。
 少年の中で何かが弾けたのか、烈火のごとく言葉を続ける。
「お前、何言ってるんだよ! どういうことだよ!」
「はぁ、回りくどい言い方が嫌だったのだと思いまして……」
「どうすれば、そういう結論にたどり着くんだよ!」
「あ、あの……私、どうすれば……」
「知るか!」
「少々お待ちください」
「はぁ……」
 結局、少女を一人置き去りにして、男と少年のやりとりは日が暮れるまで続いたのだった。
短編 デートの最期は
 時間はもう、ほとんど残されていなかった。
 日没まで、あと一時間もない頃合い。
 賑やかな蝉の鳴き声に囲まれながら、俺は美緒と一緒に神社の石段を上っていた。
「キョウヤの方から誘ってくれるなんて、珍しいね」
 美緒は時折笑みを浮かべながら、進んでいく。
 俺はその顔を見ないようにしながら、淡々と神社目指して上り続ける。
 背後から差し込む光で、石段が暁色に染まっていた。
「うわぁっ、夕日がきれいだよ」
 しかし、俺には悠長にその言葉に答える余裕は残されていなかった。
 普段以上に身体が重く感じ、呼気も荒い。
 蝉の鳴き声が、頭の中にガンガンと響いて聞こえる。
「ねぇ、大丈夫? 顔色が悪いけど――」
 俺の異変を察知してか、美緒が心配そうに俺の顔をのぞき込んできた。
「あぁ……」
 曖昧に返事をしながら、俺は頂上に見える鳥居を目印に必死に脚を持ち上げ続けた。
 背中に美緒の手が当てられたのがわかった。
 陽の温かさとはまた違ったぬくもりが手の平を通じて背中に感じられる。
 美緒の優しさに、目頭が熱くなる。
 しかし俺は、歯を食いしばってそれをこらえる。
 今はまだ涙を流す時ではない。
 俺は黙々と歩み続ける。

 所々色が剥げた鳥居を抜け、俺たちは境内に到着した。
 境内は涼やかな風が吹いていて、心地よかった。
 ほんの少しだけ、力が湧いてきたような、そんな感覚がする。
 それは、やはりここが神聖な場所だからだろうか。
「……キョウヤ?」
 立ち止っているのを不思議に思ったのか、美緒が声をかけてくる。
「……いや、行こうか」
 俺は美緒にそう言うと、一足先に歩きはじめる。
「あっ、ちょっと待ってよ」
 美緒はすぐに隣に位置取る。
 日は既にその姿をおおよそ沈め、夕闇が天を包みはじめていた。
 あんなにやかましかった蝉の音が、今は驚くほどに静かに感じられる。
 行き先は、二人の思い出の場所。
 俺と美緒が初めて出会い、恋仲へとなった、特別な場所。
 そこに向かうことが何を意味するのか、美緒も薄々感づいていることだろう。
 でも、美緒は何も言わずに着いて来てくれている。
 それが嬉しい半面、寂しくもあった。
「……美緒」
「何、キョウヤ?」
「……ありがとうな」
「――うん」
 腕に身を寄せて大きく頷く美緒。
 その感触を強く身体に刻み込ませながら、俺は最期の瞬間をゆっくりと味わうことにした。
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