IPPI STYLE
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
短編 ペナント募集
 汗で肌がべたつく。
 コンクリートジャングルは、夜になっても熱が街のあちこちにこもっていて、余計に蒸し暑い。
 少しでも涼しいところに逃げようと、手近なコンビニへ入ろうとする。
 ……が、その前には清掃中の看板。
 ワックスをかけているとか、面倒すぎる。
 この様子だと、他の場所へ回った方が良さそうだった。
「――あそこでいいか」
 とりあえず目に入ったファストフード店へと足先を変えると、そのまま自動ドアをくぐった。
 入店音と共に、冷たい空気が体中の熱気を吹き飛ばしてくれる。
 汗のせいで湿ったシャツが、冷たく感じる。
「いらっしゃいませ~」
 軽いノリで女性店員の可愛らしい声が伸びる。
 とりあえず、コーヒーを頼み、奥の席へと向かった。
 歩きながら、冷房の直接当たらない席を探す。
 あと、できるだけ死角になる場所が望ましい。
 ちょうど奥まった場所にある席を見つけ、腰を下ろす。
 喫煙席だが……他に客が居る様子もないし、問題ないだろう。
 コーヒーをすすりながら、一息吐く。
 程良い酸味と苦みが、喉の奥へと流れていく。
 そして、そのままゆっくりと目を閉じた。
 街中を散々歩き続けてきた疲れが、妙に心地よい。
 それから数分後のことだった。
 何者かの気配を感じて、何気なく顔を持ち上げる。
 入店音も席を移動した音も聞こえなかったのに、隣の席では色白の女性が顔をうつむけていた。
 長い髪のせいで、その表情こそ確認はできないが、その雰囲気からして、彼女が普通ではないことを本能的に察知することができた。
 残りのコーヒーを一気に胃へ流し込み、そそくさと席を立つ。
 身体も大分冷え込んできているみたいで、小刻みに震えていた。
 返却口にカップを置くと、そのまま自動ドアへと向かう。
「ありがとうございました~」
 背中に女性店員の声が降りかかる。
 しかし、今日ばかりはそれが救いだった。
 店の外は、じんわりと蒸し暑さが漂い、息をするだけでも体力を消耗してしまいそうだ。
 しかし、店内で感じていた異様な寒気に比べれば、幾分マシだと思えた。
 深く息を吐き、行き先も決めずにゆらゆらと歩き始める。
 その瞬間――ぷつんと靴ひもが切れた。
 恐る恐る、背後を振り返る。
 そこには、ペナント募集の張り紙がぺらぺらと風に揺らめいていた。
スポンサーサイト
短編 Secret Kiss
 木枯らしの吹き荒ぶ深夜の街。
 薄ぼんやりとした明かりが灯るのは、街角のコンビニと24時間営業のファストフード店。
 ぎらぎらとした明光を放つのは深夜営業の飲食店くらいで、そのどれもがメインの大通りにつらなっている。
 そんな中、人気のないファストフード店の片隅では、高校生くらいの少女が二人、手を繋ぎながらテーブル席に腰を下ろしていた。
 片方は茶髪をふんわりと持ち上げたセミロング。
 もう片方は、綺麗に染め上げられた金髪のロングヘアだ。
 二人の間に会話は無かった。
 ただ、テーブルの上に置かれているグラスの中で、溶けかけの氷がカラリと涼しげな音を立てる。
 店内の暖房が、ごうごうと絶えず温風を吐き出し続ける。
 それをかき消すように流れ続けるのは、著名なアイドルの楽曲をアレンジしたBGM。
 店の入口にあるカウンターレジでは、中年の男性が欠伸を抑えることもなく大きな口を開けていた。
 金髪の少女は重なった手をギュっと握った。
 それに気付いて、茶髪の少女は顔を持ち上げる。
 二人は互いに見つめ合い、何を言うでもなくただはにかむように笑い合う。
 そして、重ねた手をどちらともなく、更にきつく絡め合わせる。
 その様からは、もう決して離しはしないという想いが感じられた。
 テーブルの上では二人の姿を眺めながら、グラスが底をびっしょりと濡らしていた。
 涙を流す二つのグラス。
 それに目を向けることもなく、二人の少女は両手で繋がり合う。
 身体を寄り合わせ、顔と顔が互いの息がかかる距離まで近づいていく。
 茶髪の少女の口が小さく動く。
 それに呼応するように金髪の少女も口を小さく動かした。
 そして――周りから隠れるようにして、二人は唇を重ねる。
 秘めた想いを悟られないように、少しばかり身体を小さく縮めて。
 二人の吐息が混ざり合い、消えていく。
 二人の唾液が絡まり、喉奥へと嚥下されていく。
 二人の距離が零になり、闇夜に溶けていく。
 誰も見ていない、深夜のファストフード店。
 世界から隔離された二人は、近い未来のことすら考えることもできずに、ただ残り少ない現在を確かめ合うことしかできなかった。
 テーブルの上では、相変らず二つのグラスが並んでいた。
 グラスから垂れた涙同士がテーブルの上を伝い、一つに繋がっていた。
短編 夏の蜃気楼
 広大な海を眺めながら、浜辺を歩く二つの人影があった。
 過ぎゆく夏という季節を、足の裏で感じながら二人は一歩ずつ歩みを進めていく。
 流れ込んでくる潮騒に耳を傾けながら、少年は少女の手をしっかりと握りしめた。
 少年の服装は、半袖のシャツに半ズボン姿。
 後ろを歩く少女は麦わら帽子に白いワンピース姿だった。
 絶え間なく吹く海風にスカートが大きく揺れる。
 不意に少年の足が止まった。
 それに伴って、少女の歩みも止まる。
 少女が顔を上げると、少年の視線は浜辺のとある一点を見つめていた。
 少女も少年に習って視線をたどる。
 そこには一組のカップルが、階段の上に座っていた。
 背の高い男性に対し、背の低い女性。
 身長差は数十センチはあろうかという凸凹カップルだった。
 少年たちが見ていることに気付いたのか、女性の方が笑顔で手を振って見せた。
 一方の男性は手を振ったりなどせず、少年たちの方をぼぅっと眺めるばかり。
 こうして見ると、親子のようにも見えて、少し滑稽だった。
 少年はそれに応えることもなく、再び歩き始めた。
 引っ張られるように少女も後をついて歩く。
 頭上から晩夏の日差しと共に、カモメの鳴き声が降ってくるのが感じられた。
 歩き始めてから、結構な時間が経過した。
 もう、二人の周りには人影どころか動物の姿すら確認できなかった。
 青い空の下に、紺色の海が広がっている。
 波打ち際に広がる白銀の浜辺に、二人きりだった。
「……そろそろ、行こうか?」
 少年が初めて口を開いた。
 対して少女は小さくうなずく。
 それを確認すると、少年はつま先の方向を水平線の方向へと変えた。
 そして――少年の足が海面に触れる。
 今度は、少女を隣に伴って。
 二人の脚は海の上を渡っていく。
 その姿を確認できる者はいない。
 ただ、空高く見下ろす太陽だけが二人の行く末を見守っていた。
 二人が蜃気楼のごとく、消え去るまで……。
短編 天よりご挨拶に
 小高い山の中腹。
 周囲は紅や黄色にそまった木々が一面を埋め尽くしていて、幻想的な雰囲気を醸し出している。
 そんな自然あふれる山道の傍ら、ちょうど木の陰に隠れるようにして、一畳サイズのござが敷かれていた。
 ござの上には、小さな布の包みと紫陽花色の着物を着た老婆が膝を折って座っていた。
 ――姥捨て山。
 その昔話と同じことが、この地にて行われている。
 老婆は自分を連れてきた我が娘の後ろ姿を見送ることもなく、ただ目を閉じて足音が遠ざかっていくのを聞くばかりだった。
 そして、完全に足音が聞こえなくなった頃。
 老婆はゆっくりと目を開けた。
 目の前では枯葉がころころ転がって、寂しげに流れていく。
 老婆はおもむろに布の包みを開くと、中にあったお茶の容器を手に取り、封を切った。
 それは、本当に紅葉を楽しんでいる女性の姿以外に見ることができない。
 その表情はとても穏やかで、まるで、悲しみや恐怖といった感情など、家に置き忘れて来たかのようだった。
 老婆がふと顔を向ける。
 その視線の先には紅葉色の着物に夕陽色の帯を身に付けた少女が笑顔で佇んでいた。
「……おや、可愛らしいお譲さんだこと」
 老婆は目尻を下げて、少女の顔を眺める。
 少女は老婆の近くまで寄ると、口を開いた。
「ねぇ……おばあちゃん」
「なんだい?」
「……もう一度。もう一度、やり直したいって思う?」
「やり直したいって、人生をかい?」
 老婆は何ら疑問を抱くことなく少女に尋ねる。
 まるで、少女が人間ではないことを知っているかのような口ぶりで。
 老婆の問いに、少女は苦笑する。
「その様子だと、私がに人間じゃないって、わかっているみたいだね。つまんないなぁ……」
 少女はその場でくるりと一回りする。
 瞬間、周囲の落ち葉が舞い上がり、カーテンを作りあげた。
 でもそれはほんの一瞬のこと。
 宙に舞ったカーテンはすぐに大地へ舞い降りた。
 そして、そこに立っていたのは先程の少女。
 しかし身につけているのは、先程の着物ではなく、天女の身につけるような、ふんわかとした衣だった。
「可愛らしい天女様だねぇ」
 老婆の言葉に少女は、不服そうに答える。
「これでもおばあちゃんより年上なんだけどなぁ……でも、可愛いって言われるのは悪い気がしないからいっか」
 コホンと小さく咳払いすると、少女は改めて老婆に問いかける。
「いかにも。私は貴女の信仰していた神に使える天女よ。天女が神に仕えるってどういうこと?とか、そういうつまらない質問はナシでお願いするわね」
 少女の言葉に、老婆は小さくうなずく。
「えぇ、もちろんよ。それに、私の答えは決まっているわ」
「へぇ……最近の人間にしては珍しいわね。で、答えは?」
 老婆はお茶をひとすすりしてから、笑顔で答える。
「――私は、このまま死にたいわね」
 老婆の言葉にさほど驚いた様子も見せず、少女は続ける。
「そう……まぁ、うちの神を信仰しているくらいだから、ある程度は予想ついたけどね」
「そいつは、どうもありがたいことで……」
「別に、褒めてないわよ。それじゃあ、また――極楽で逢いましょう?」
 そう言って微笑むと、少女はふっと姿を消した。
 その場に残された老婆は、目を細めながら目の前に広がる広大な紅葉畑を眺め、残り少ないひと時を楽しんでいた。
 風に揺れる紅葉が、鮮やかに波打って、ざわざわと賑わいでいた。
短編 もしも人形が現れたら?
 北風がくるりと枯葉を巻上げて、アスファルトの上を駆けていく。
 肌を刺すような寒さから逃れるように、俺の足取りも自然と速くなる。
 早朝の町には人の姿はなく、閑散としていた。
 しばらく道を歩くと、目的のコンビニがあった。
 俺は迷うこともなく、コンビニの自動ドアをくぐる。
 入店音が店内にわびしく響いた。
 店内の暖房に、冷え込んだ身体が温まっていくのがわかる。
 とりあえず、窓際の雑誌コーナー前を歩いて、今週の新刊が出てないかチェックだけをしてみるが、どうやらまだ準備はできていないようだ。
 俺はそのまま突き当りのドリンクコーナーを経由して、一列目の棚の裏側へと回る。
 そこに並ぶのは、雑貨と文房具の陳列。
 俺は近くに重ねて置いてあった、小さなカゴを手に取り文房具を適当に放りこんでいく。
 本当の目的はカッターナイフ。
 それでも他の文房具もまとめて購入するのは、それだけだと何だか編に勘繰られそうで、それを誤魔化すためだ。
 俺はひとまず踵を返し、ドリンクコーナーで500ミリの水を手に取ると、カゴに入れた。
 口の中が渇いて仕方なかった。
 俺は胸が強く高鳴るのを感じながら、レジへカゴを置く。
 店員がけだるそうにビニル袋へ商品を入れていく。
 会計を済ませると、俺は足早にコンビニを後にした。
 思いの外、汗をかいていたみたいで、背中がびっしょり濡れていた。
 それが外気に触れて、なんだか気持ち悪い。
 さっさと帰って、事を済ませたかった。
 でも――その前に、シャワーくらいは浴びた方がいいのだろうか?
 そんなくだらないことを考えながら、俺は家路を歩む。
 瞬間、ビニル袋からガサリと音が聞こえて、俺は足を止めた。
 中で何か動いたような気がしたが……気のせいだと信じたい。
 でも、音は確かに聞こえたし――。
 俺は恐る恐る中をのぞき込むと、手のひらサイズの人形がこちらを向いて、手を振っていた。
 恐怖よりも先に、こんなもの買っただろうかという疑問の方が思い浮かぶ。
 しかし、そんなことは些細な問題だ。
 俺が欲しかったのはカッターナイフ。
 それ以外のものが入っていようといなかろうと、大した問題じゃない。
 だが――その荷物の中に、確かに買ったはずのカッターナイフがなくなっていることにも気付いた。
 俺は驚き、袋の中をガサガサとあさる。
 人形が手の上で踊っていたが、そんなのを気にしている余裕は無い。
「――嘘、だろ……」
 確かに買ったはずのカッターナイフが、ここにない。
 代わりに、買った覚えのない人形が袋の中で笑っている。
「――もしかして、お前……」
 人形に向かって話しかけると、人形はぴょこんと飛び跳ねた。
「とりあえず、家に――」
 独り言をぶつぶつ呟く自分の姿を、誰かに見られてはいないかと周囲をキョロキョロと確認する。
 そして、誰もいないことを理解すると、俺はそそくさと自分の家へと帰っていった。
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。