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短編 黒魔術は失敗しました
 全面に大小さまざまな石を敷き詰めただけの空間は、どこか薄暗くて、不気味さが漂ってくる。
 決して広くはなく、どこか物足りなさを感じる部屋。
 唯一の光源は、ゆらゆらと燃える松明の灯。
 その不安定な明りが、部屋全体から感じる圧迫感をより一層強めている。
 ……ごぽっ、ごぽっ。
 普通では聞き逃してしまいそうな物音も、反響して物淋しい雰囲気を増長させる。
 今も響いているのは液体が沸き立つ音。
 その音の源は、部屋の中心におかれた、巨大な壺の中。
 壺は床に直に置かれており、火にかけられたりしているわけではない。
 それでも壺の中では濃い緑色のドロドロとした液体が何やら化学反応を起こしているらしく、激しく音を上げていた。
 そんな謎の液体を、絶えずかき混ぜるのは、十代前半と思われる、若い少女だった。
 小柄な体格に、フリルのついた白い衣装は、少女の可愛らしさを十二分に引き立てている。
 しかし、それゆえにこの部屋での違和感も一入であった。
 暗がりにぼんやりと浮かび上がる少女の白い顔。
 だが、老婆のそれに比べると、やはり迫力が足りていない。
 壺の内から白い煙のようなものが上がり始める。
 それを吸ったせいか、少女は大きくせき込んだ。
 目元に涙を浮かべつつ、少女は棒を持つ腕を動かし続ける。
「ちょっと……休憩……」
 少女は顔を背けながら、棒を杖代わりにして休憩に入る。
 緑色の液体は、その間にも反応が進んでいるらしく、明るい色合いへ変色を始めていた。
 しかし少女はそれに気づかない。
 それどころか、その場にしゃがみ込んでしまった。
 座るのはさすがに躊躇われたらしい。
「はぁ……でも、サボると鬼婆がうるさいからなぁ」
 聞かれてないことをそっと確認しつつ愚痴をこぼすと、少女は口先をとがらせながらも再び立ち上がる。
「さて、もう一仕事……って、へ?」
 覗き込んだ壺の中身は、少女自身が思っていたよりもずっと異質なものだった。
 液体だったはずの中味はスライム状に固まり、色も緑から蛍光色へと移り変わっていた。
 失敗作であることは、誰の目に見ても明らかだ。
「やば――なんとかしないと……」
 とりあえず、現状を誤魔化そうと少女は手にした棒を動かそうと試みる。
 だが、粘度の増した液体はぴくりとも動かない。
「――あぁっ! もうっ!」
 少女は力任せに棒を引き抜こうとする。
 その瞬間、壺の内側は眩い輝きを放った。
「――嘘でしょっ!」
 少女の声をかき消すように、爆音が周囲に響く。
 黒い煙がもくもくと上がり、その直後――。
「この馬鹿者がぁっ!」
 鬼婆と呼ばれた老婆の怒鳴り声が少女の頭上へと落下した。
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短編 ポーカーゲーム
 酒の匂いと荒々しい喧騒に包まれた酒場。
 板張りの床に、窓ガラスこそ張られているものの、脆く弱々しそうな木製の壁。
 その片隅では、やはり木製のテーブルを囲んだ、厳つい連中がいた。
 ある者は筋骨隆々の大男。
 またある者は、額に大きな傷をつけた鋭い目つきの男。
 中には眼帯に濃いひげを携えた、引き締まった体をもつ若い男まで。
 そんな彼らが熱心に見守っているのは、とある勝負の行く末だった。
「――ちっ。ワンペアだ」
 舌打ちをしながら、手にしたカードを目の前に放り投げるのは、ポーカーに興じる4人のうちの1人――頭の薄い、小太りの男だった。
 白いシャツにオーバーオールという、周りに比べて庶民的な格好だが、その眼光は勝負師故の鋭さを持っている。
「ダメね、今日は運が回ってないわ」
 そう言って同じくカードを放るのは、豊満なスタイルの若い女性。
 髪はゆるくウェーブがかかり、すらっと伸びた長い脚は、見る者を皆虜にする程。
 椅子に腰かけ、脚を組みながら悩ましげに首を振る姿は、それだけで周囲の視線をくぎ付けにしていた。
 だが、そんな彼女も、その美貌からか運命の女神には見放されたらしい。
 彼女の手札も『ワンペア』、勝利には程遠かった。
「イカサマじゃねぇよな? ほらよっ」
 疑惑の眼差しを送りながらも、カードと掛け金と思われる金貨を放るのは、取り巻きのボスと思われる中年の男性。
 豪華な装飾の施された衣服に、手には指ごとに色の違う宝石類が輝いており、彼がその筋の人間であることは、誰の目にも明らかだった。
 そして、テーブルの上に散らばったカードの組み合わせは、全てスペード――『フラッシュ』だった。
 そんな彼らの視線を集めるのは、十代半ばに見える幼い少年。
 彼は転がった金貨を手に取ると、椅子に深く腰を掛け直して息を大きく吐く。
 少年の手札はAの『フォーカード』だった。
「イカサマなんて、できるわけないじゃないですか。なんならポケットの中も見てみますか?」
 少年の腕は、肘までシャツがまくられており、手先だけでカードをすり替えるのは至難の業だ。
 加えて、少年はズボンのポケットを内側から引っ張り出して中に何もないことをアピールする。
「……いや、わかった。勝負は時の運だ。認めよう」
 苦虫を噛み潰したように、ボスは顔をゆがめ、次のゲームに移ろうとする。
 その様子をうかがいながら、少年は人知れず溜息をついた。
 ――大丈夫、まだいける。
 そう少年は強く確信していた。
 彼の特技――それは、人よりも鼻が利くことだった。
 酒の匂いが充満する、この酒場。
 トランプに染み込んだ、微かな香りの違いを嗅ぎ分けられる人間は、そうそう居やしない。
 小さく負けて、大きく勝つ。
 怪しまれないように、疑われないように。
 周りの面子とは、また違った緊張と戦いながら少年は次のゲームに挑むのだった。
短編 女子高生の朝
 新学期が始まって早々のこと。
 女子高生が制服姿のまま、朝の通学路を走っていた。
 ようやく着慣れてきた、新しい制服。
 膝上10センチまで短くなったミニスカートをひらひらとなびかせながら、近所のバス停を目指す。
 次を逃したら、遅刻確定。
 何としてでも間に合わせなくてはならない。
 しかし、手にしたバッグが前後に激しく揺れて、著しく体力を奪っていく。
 それに彼女はアスリートなどではない、ごくごく普通の女子高生だ。
 全力疾走でのペースはいつまでも持つはずもない。
 結局、バス停に到着する前に彼女の体力は底を尽いてしまった。
 足取りは亀のように遅くなり、頭には遅刻してもいいかと楽観的な思考が浮かぶ。
 別に皆勤賞を狙っているわけでもないし、そんなにマジメな生徒というわけでもない。
 かといって授業を積極的にサボタージュするような生徒というわけでもないのだけど。
 荒い息を沈めるように、ゆっくりと歩みを進めながら街の様子を眺める。
 大通りの車道は渋滞していて、アイドリングによるエンジン音が絶えない。
 歩道も、通勤通学の社会人や学生の中に、自分と同じ学校の制服を着た生徒がちらほらと見て取れた。
 ――案外、大丈夫なのかもしれない。
 時差式の信号のある交差点を道なりに曲がると、バス停が見えた。
 いつもよりも多く人が並んでいた。
 ――バスが遅れているのかな?
 バス停に到着した女子高生は、とりあえず列の最後尾に並ぶ。
 前に並んでいるのは、同じ高校の制服を着た生徒二名。
 見覚えのない顔だったので、きっと上の学年の生徒なのだろう。
 変に絡まれないようにと、バスが向かってくるであろう道路の先を眺めながら時間を潰す。
 そんな彼女の耳に入ってきたのは、他でもない前に居た二人の会話。
「バス遅いね」
「なんでも人身事故だってさ」
「マジで? 今日友達にマンガ借りる約束してたのに――」
 どうやら、渋滞の原因は人身事故らしい。
 他人の不幸を喜ぶというのは、善いことではないかもしれない。
 でも、私にとってそれは遅刻の免罪符とも言える、不幸中の幸いとも言える出来事だった。
短編 しあわせの薬
 繁華街を抜けた先にある、住宅密集地。
 外灯が点々と道路を照らすが、人の気配はまるで感じられない。
 ただ響くのは、三次会を終えたサラリーマンの千鳥足が奏でる、不規則なステップの音ばかり。
 外灯の下をふらりふらりと、危なげに進むその男は、灰色のスーツ姿で、真っ赤に顔を染め、酒臭い息をまき散らしていた。
 背中をブルブルッと震わせると、男はその場で立ち止る。
「ちょっと冷えたかな~?」
 上機嫌な口調でそうつぶやくと、股間のジッパーをギギギと下ろす。
 散歩中の犬さながらに排泄を済ませると、白い湯気がもわっと上がった。
「あははははは。大量大漁……んっ?」
 笑いの沸点が大きく下がった男だったが、その笑いは見慣れぬソレによって中断される。
 一定の間隔で置かれた外灯とは、明らかに違う光がぽつりと遠くに浮かんで見えたのだ。
「あれは、お化けなのかな~?」
 通常であれば危機感やら不信感を覚えるところではあるが、正常な思考回路が機能していない男は、興味本位でそこへと近づいていく。
 明かりはだんだんと近くなっていき、そこに誰かがいることがわかった。
「――いらっしゃい」
 声をかけたのは、そこに居た『誰か』の方だった。
 その声質から、その人物は恐らく老婆ではないかと思われる。
 全身を真っ黒な布で覆い、その容姿はまるで魔女か占い師といったところ。
 荷物も特に確認できず、あるのは手前に置かれた小さなテーブルだけだった。
 どう見ても不審な人物だが、男は吸い込まれるようにその人物のそばへと近づいていく。
「こんな時間にどうしたの~?」
「なぁに、薬を売ってるだけさ」
 挑発的な男の絡みに動じることもなく、その老婆は返答する。
「薬? 俺は、健康ですよぉ~」
 手を左右に振って自らの健康をアピールする男。
 瞬間、老婆が顔をわずかに上げると、口元がニッと笑うのが見えた。
「いえいえ、幸せの薬ですよ」
 そう言うと、黒い布の中からぬぅっと手が伸びる。
 その腕の先にあるのは、市販の薬と大差ないような、透明なガラス容器だった。
 中には錠剤のようなものが入っていて、一見普通の風邪薬のようにも見える。
「しあわせのくすり?」
 男は興味深そうに錠剤の入った瓶を眺める。
 そして、胡散臭そうに目を細め、老婆をにらみつけた。
「いくら俺が酔っ払ってるっからって、そんなのに騙されませんよ~。そんな薬、あるわけないんだから」
 そう言って、背を向けようと体をよじった瞬間、老婆の声が男の肩をガシッと掴んだ。
「では、一粒試してみますか? お代はもちろん要らないですよ」
「本当に? 金は払わないよ~?」
 男は再び老婆に向き直り、確認するようにじぃっと見据える。
「えぇ、えぇ。本当ですとも。その証拠に今ここで一粒出しますからね」
 そう言うと、老婆は目の前で瓶の蓋を開け、錠剤を一つ取り出す。
「手をお出しくださいな」
 言われるがまま、男は手の平を差し出す。
 老婆はその上に、約束通り一粒の錠剤を乗せた。
 近くで見ると、錠剤は周りをコーティングされているらしく、照明の灯りを反射して、ツヤツヤと輝いていた。
「水なしでも飲めますけど、いかが致します?」
 そう言いながら、おもむろに黒い布の中から水らしき液体が入った、ガラスのコップが伸びてくる。
 さすがにこれは、不審に思ったのか、男は首を横に振った。
「いいや、このまま飲むぞ。金は払わないからなっ!」
 そう強く言い放つと、男は錠剤を一気に丸飲みした。
 口の中に唾液が溜まっていたこともあって、錠剤は案外簡単に喉奥へと入っていった。
「あ……れ……?」
 男の体が大きくぶれた。
 それどころか、視界がぐるぐると回り、気分がどんどん悪くなっていく。
 ――気持ち悪い。
 そんな感情さえ置き去りにするように、視界の回転は激しさを増していき、そして――ある所でプツリと意識が途切れた。
 まるで、何かの電源が切られたかのように。

「課長、今日も無断欠勤ですか?」
 数日後、男の通う会社のオフィスでは、若い女性社員が愚痴をこぼしていた。
「いや、郊外のコンビニ裏で見つかったらしいよ」
 ほら、とパソコンのニュースサイトを開いて見せるのは、男の部下であった若い男性社員。
「本当だ。課長と同じ名前……」
 女性社員が食い入るように見つめていたパソコンの画面内には、中年の男性が、動物さながらにゴミを食い漁っていたという記事が載っていた。
「何か変なモノでも食ったのかねぇ」
「ストレスで精神がおかしくなっちゃったんじゃないですか?」
 そう言って笑い合う男性社員と女子社員。
 彼らがその真実を知る日は、そう遠くは無いのかもしれない。

「知らないってことは、幸せなことなんですよ。人間は色々と知り過ぎているから、不幸になるんです」
 それは、課長だった男の頭に入っていた老婆の言葉。
 だがそれさえも、今ではきれいさっぱり、知識の中から消え去っていたのだった。
短編 緋色のカーテンの中で
 夜だというのに、周囲は真昼のように明るかった。
 それどころか、凄まじい熱気が我が身を焦がそうと絶えず襲いかかってくる。
 その根源は、紛れもなく部屋全体を包み込む炎の煙のカーテン。
 口どころか目を開くことさえ、はばかられるような、この上ない生命の危機を感じる状況だった。
 なんとかしてこの場から逃げ出さなくては。
 そう頭ではわかっていても、知らず知らずのうちに吸っていた白煙交じりの空気は、自らの呼吸器を蝕んでいく。
 まずは、体を起こすことから始めないと。
 両腕に力を込めようとするが、意識がもうろうとして力が入らない。
 暑いというよりも、苦しいという感情の方が先に立っていた。
 寸前の記憶を思い起こしてみても、火事になるような要因は思い当たらない。
 今晩の食事は外だったし、煙草も吸わない。
 だとすると、原因は他の部屋ということになる。
 今更文句を言っても仕方ないとは思うが、それでも恨まずにはいられない。
 死という概念が、強く脳裏に刻まれる。
 そして、生きたいという執念も心に強く芽生えた。
 しかし、思うように体が動かない手前、後悔の念ばかりが厚く積もっていく。
 こんなことなら、もっとおいしいものを食べておけばよかった。
 こんなことなら、もっといいアパートに住んでおけばよかった。
 こんなことなら、こんなことなら――。
 そんな考えばかりが、頭の中をぐるぐると渦巻いては終わりなく続いていく。
 現実逃避にも似た思考を断ち切ったのは、ほかでもない体への刺激からだった。
 熱気は常にチリチリと体の表面を焦がしている。
 まるでオーブンの中に閉じ込められたかのような気分だ。
 煙が目にしみて、涙がこぼれる。
 その涙も熱気によりすぐに干上がり、目元に塩の結晶が形成されていた。
 しかし、それを取り払うだけの余裕も、体力も既に燃え尽きている。
 肢体はふたたび堅い床の上へと倒れる。
 声を絞り出そうと、声帯を震わせるも、口から出てくるのは力無い咳だけだった。
 だんだんと、熱さも感じなくなってきた。
 もう、全身の感覚器がマヒしてきたのかもしれない。
 開いた口の中身が、一気に乾いていく。
 わかってはいても、体がいうことをきかない。
 こんな形で人生は終わるものなのか。
 人間とは、こんなに脆く弱いものなのか。
 そんな考えが頭の中に浮かんでは消えていく。
 靄がかかったように、視界が、思考が、薄れていく。
 そして、意識が完全にブラックアウトする寸前――遠くにサイレンの音が聞こえた気がした。
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