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短編 旅立ちと別れ
 都会から遠く離れた地方の、人気も侘しい駅のホーム。
 線路上には出発を待つ列車が、入口を開いて停車している。
 ホームに居た人々も、今では皆が電車の中へとその身を押し込み、ひと時の暖に嘆息を吐いていた。
 ――ただ1人の例外を除いて。
 彼女は身体を縮みこませながらホームの時計に目を向ける。
 発射の時刻まではあと2分といったところ。
 これを逃せば、乗り換えには間に合わないだろうし、チャンスも無い。
 ただ、それでも彼女にはホームで待ち続ける理由があった。
 上には澄み渡った青空が広がり、ひんやりとした空気が周囲を取り囲んでいる。
 白い吐息は、現れては霧散を繰り返し、時間の経過を人知れず物語っていた。
 一段と大きな溜息が女性の口から漏れた。
 そして、どこか寂しそうな表情で電車の入口へ足を踏み入れようとした瞬間――。
 タッタッタッタッと誰かが階段を駆け上がってくる音が聞こえてくる。
 女性は足を止め、階段へと振り返った。
 そして、その人物の顔が見えた途端、彼女の脚も自然と動いていた。
 手にしていた荷物も、名残も、未練も、全てをその場に放り捨てて、今一番会いたかった人の元へと彼女は駆け寄る。
 女性の小さな身体を受け入れたのは、コート姿の凛とした顔立ちをした男性だった。
 男性としては特段背の高いというわけでもない、中肉中背の体格。
 だが、それでも小柄な女性を包みこむには、それで十分だった。
 2つあった人影が1つになる。
 それは、別れを惜しむ最後の抱擁だった。
 男性は女性の耳元で小さく言付けると、名残惜しそうにその身を離す。
 女性も身を離すと、無理矢理に作り上げた笑顔で男性に別れを告げる。
 ホームに発車のアナウンスが流れる。
 慌てて女性は電車へ駆け出し、荷物を拾い上げた。
 女性が電車内に入ったことを確認すると、駅員は表情を変えることなく自分の仕事を遂行していく。
 前後の確認をして、時刻を確認、そして滑らかな仕草で運転席へ出発の合図を出した。
 電車がゆっくりと動き出す。
 途端に電車の窓の1つが大きく開かれる。
 そこから顔をのぞかせたのは先程の女性。
 それに気付いた男性も、顔を上げると女性の顔を見つめながら大きく手を振った。
 電車は次第に速度を上げ、その姿も小さくなっていく。
 駅員は仕事を終えると、駅舎の中へと戻っていく。
 だが男性は、電車が見えなくなるまで、ずっと彼女の背中を見つめ続けていた。
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短編 終業式
 放課後の校舎。
 廊下を歩くのは、帰り支度を済ませた生徒達の笑い声。
 白い廊下のタイルの上を、子供っぽく走り回っていた男子生徒は、職員室へ戻ろうとしていた教諭に呼び止められ、注意を受けている。
 それを横目に談笑していたのは、独自に制服を着崩した女子生徒達。
 いつもであれば、その多くが帰宅しているであろう時間だが、今日ばかりは例外であった。
 終業式が終わり、学校を出れば冬休みがすぐそこに待っている。
 今日を逃せば、次に会うのは年越しの後。
 それに加え、休み前という気持ちの高揚もあって、学校内には祭りのような賑わいが広がっていた。
 普段は早く帰れという教師も、自分の仕事を仕上げる為に足早に職員室へと閉じこもる。
 職員室の中では、暖房が廊下で冷え込んだ体を迎え、教諭の口から安堵の息が漏れる。
 しかし、それも席に着くまでの、わずかな間。
 自席に着くと、荷物を脇に置いてすぐさま書類の作成へと取り掛かる。
 放課後ということもあり、これ以上授業で時間を割かれる事もない。
 それに、この学校では授業でのわからない点を聞きに来るような生徒はいない。
 終業式の後では、それも尚更だ。
 教諭は作業に没頭した。
 時には手を休め、首や肩の凝りをほぐしながら、終業のベルが鳴るまで働き続ける。
 ふと意識を休めると、いつしか廊下には静寂が漂っていることに気付く。
 学生は休みなんてうらやましい――そんなことを想いながら、教諭は深く息を吐いた。
 目の前のパソコンには、書きかけのデータファイルが表示されていた。
 仕事納めまではあと一週間ほど。
 果たして間に合うだろうか、そんな不安を抱えながらも、気合いを入れ直す。
 カップに淹れたブラックコーヒーを一気に飲み干す。
 長時間の作業でぬるくなってしまった黒い液体は、香りはすっかり薄れ、苦みだけが口中に広がる。
「……学生、か」
 心なしか、吐く息も現実のように苦い色をしているような、そんな気がした。
短編 拘束
 ねっとりとした空気が流れ行く空間。
 まるで水飴の中にでもいるかのような錯覚さえ覚える程に、男性は息苦しさを感じていた。
 視界に入ってくるのは、捻れと歪みに支配された光景。
 それは見覚えのある景色ではすでに無く、生理的な嫌悪感と危機感を本能的に感じさせるものだった。
 強いて例えるなら、それこそ四次元の空間とでも言った方がイメージしやすいだろうか。
 ぼぉっと眺めていると、胃の中味が逆流してしまいそうだ。
 できれば今すぐにでもこの場から逃げ出したい。
 そんな欲求に駆られるが、それは叶わなかった。
 右腕、右脚、左腕、左脚。
 そのいずれも、動かそうと試みてもまったく動く気配はない。
 男性の体は何者かによって拘束されていたのだった。
 歯を食いしばり、自身の体に視線を送る。
 だが、そこには金属の鎖も、身体を固定するロープもない。
 あるのは、不気味な黒いモヤのようなものだけだった。
 見てわかる限り、黒いモヤがかかっているのは自身の上腕と大腿、そして手首足首。
 不思議なことに、モヤで覆われた部分は地肌を確認することはできなかった。
 動かしてみようと意識を働かせてみても、普段は難なくこなしている動きさえ、まるで瞬時にかき消されてしまったかのように出来ない。
 ただ感じるのは黒いモヤとの境界に感じるわずかな冷たさ。
 肘から先は動かせるようだが、上腕が動かない事にはどうしようもない。
 口からは自然と溜息が漏れた。
 ――いや、諦めるのは早い。
 一瞬前の自分を、首を振って否定し、わずかな希望を求めて全身に意識を集中させる。
 存在を感じられるのは、やはりモヤのかかっていない体のパーツ。
 どういう原理なのかは不明だが、モヤが掛かっている部分だけ自分の管理の及ばない事になっているのは確からしい。
 ――もし、モヤが鎖のような役目を負っているのだとしたら……。
 1つの仮定を元に、推理を重ねる。
 思い切って片腕を肩から前面へと引っ張ってみる。
 だが、体は動かない。
 ひとしきり動いてみたところで、男性は抵抗を諦めた。
 呼吸は荒くなり、嘔吐感が激しくなる。
 普通の拘束であれば、これほどまでに苦しむことはなかっただろう。
 だが、彼が感じているのは異様なプレッシャー。
 理解の及ばない拘束と、目の前に広がる流動的な光景。
 一度酔ってしまうと、それを止める術はない。
 口元に手を当てるなんて、反射的な動作さえもままならない。
 男性は、誰かが訪れるまでの途方もない時間を、自身の体と戦いながら待ち続ける以外に、何もできなかった。
 生き地獄とも言える、苦しみと共に……。
短編 探検家ジャングルへ行く
 黒々と生い茂るジャングル。
 名前も知らない草木をせっせと掻き分けながら、私は前へと進んでいた。
 ――いや、前だと信じた方向へ進んでいたといった方が正しいだろう。
 道らしき道もなく、目印になるような建物も何もない。
 目線を上へ向けてみても、そこに広がるのは青空を覆い隠している木の葉の層。
 その隙間からは、わずかに木漏れ日が差し込んできているが、それもかろうじて足元が見える程度だ。
 疲労と焦りから足を止めた途端、周囲の音が耳へと入り込んでくる。
 それは鳥の鳴き声に、木々のざわめき。
 故郷の日常で耳にするなら、この上ない癒しが得られることだろう。
 だが、今はそれを楽しみ、心休める程の余裕はない。
 それどころか、逆に不安を煽ってしまう存在になっている。
 額より噴き出た汗を拭いながら呼吸を整え、方位磁石で進むべき道を確認する。
 磁石の針は、不安定に揺れながらも、大凡の進む方向を指し示していた。
 磁石を仕舞うと、私は再び歩みを進める。
 周囲を飛び回る、小さな羽虫にも、もう慣れた。
 ザッザッと大きく物音を立て、近くに居るであろう野生動物へ自分の存在を知らせる。
 そして、足元を確認すると全身する。
 それが自分の仕事であるかのように、ひたすらに繰り返し続けていた。
 目的の場所までは、あとどれくらいなのだろう。
 ここは、地図など全然役に立たない、密林の奥地。
 頼れるのは自分の勘と運のみ。
 次第に汗の量が増える。
 気温が上がってきたのだろうか。
 今この地を抜け出たなら、それこそ煮だってしまうのではないだろうかという気さえしてくる、じめじめとした暑さ。
 首回りや下着が、びしょびしょに濡れているのが、歩く度に感じる冷たさでわかる。
 早く着替えたい――そんな欲求と急がなければならないという焦りが同時に胸の中を暴れ回る。
 動悸が激しくなり、心臓の脈動が強く感じられる。
 そこで私は気付いた。
 ――このままでは危険だ。
 慌てて、荷物の中から水筒を取り出すと、慌てて口に含む。
 中に入っていたのはスポーツドリンク。
 こぼしてしまわないよう注意をしながらも、失われた水分を急速に補充していく。
 水筒から口を離すと、途端に汗が一気に噴き出てくる。
 とりあえず、今はこれで大丈夫だろう。
 私は水筒の口に蓋をすると、荷物の中へと再び仕舞い、再び道なき道を歩き続けた。
短編 25日午前0時
 しんしんと降り積もって出来上がった雪の絨毯。
 空は濃紺に染まり、厚い雲の隙間から顔を出した夜月が明るく輝いていた。
 月明りが雪面に反射して、キラキラと光る。
 ――ただ一カ所をのぞいては。
 足跡一つない真っ白い雪のキャンバス。
 それを汚したのは、乱雑に散らばっているプレゼントとわかる四角い包みの数々。
 赤、緑、黄色、様々な色の包みは落下の衝撃のせいか、いずれも歪にひしゃげていた。
 プレゼントたちに取り囲まれるように倒れているのは、鮮やかな赤服の人間。
 うつ伏せに倒れた体を、腕をぷるぷると震わせながらも、その肢体を必死に持ち上げようとしている様は、遠目に見ても痛々しい。
 その人間はやっとの思いで体を持ち上げると、周囲を見渡した。
 それは、驚きと切なさが入り混じった、おじいさんの顔だった。
 そして、彼は顔や服に着いた雪を払う間もなく、散らばったプレゼントを掻き集め始める。
 両腕にプレゼントを抱えながらも、雪の上に膝をつき、立ちあがろうと試みた。
 しかし、体重を掛けた瞬間、彼の顔は痛みに大きく歪む。
 プレゼントの一つが、雪の上に零れた。
 慌てて腕を伸ばすが、更なる激痛が膝に走る。
 一瞬の硬直の後、老人は痛みを堪えてプレゼントを腕の中へと押し込み、改めて周囲を見渡した。
 その視線が止まったのは、雪の中に半分埋もれていた真っ白い袋。
 目を凝らさなければ、ただの雪の山と勘違いしてしまいそうなそれを見抜く事ができたのは、彼がその袋と長い時を過ごしてきたからに他ならない。
 老人は片足を引きずりながら、袋へと近づく。
 袋の雪を払い、口を開いて中味が安全であることを確認したところで、老人の顔に安堵の色が浮かぶ。
 腕に持ったプレゼントも大切そうに中へと仕舞うと、それを肩に背負った。
 そのまま歩くと、足元が大きくふらつく。
 その都度、痛みが全身に走り、身体が傾く。
 しかし、彼がその場に倒れることは無かった。
 それは彼を支える想いがあったから。
 彼を待っている純粋な気持ちが、道しるべとなっているから。
 それを頼りに、彼は今日という瞬間を生き続けているのだ。
 ――メリークリスマス。
 その想いを胸に秘めて、彼は最後の仕事を成し遂げる為に動き続ける。
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