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短編 青年と野宿
 パチパチと焚き火が燃え、そこから生まれた煙は夜空にうっすらと筋を伸ばす。
 満天の星空と言えば聞こえはいいが、逆に言えば周りに人工の明りが一切存在しないということでもある。
 絶えず瞬きを繰り返しながら、自分を見下ろしている星たち。
 その中でも一際大きな光源を有しているのは十五夜の月だった。
 その明るさに、遠き故郷の思い出がフッと思い浮かぶ。
 騒がしい酒場、賑やかな街道、そして家族の団欒。
 当時はやかましいとばかり思っていたものが、今になって恋しく感じる。
 それは、やはり今の状態に慣れていないからなのだろうか。
 旅に出てから、一週間経つというのに――。
 いや、一週間経ったからそんな思いに襲われたのかもしれない。
 思えば、最初のうちは苦労と驚きの連続だった。
 食べる事、生きる事に必死だった。
 それがようやく落ち着いてくると、本能的に平穏な日常を求め始める。
 考えてみれば、当然のことなのかもしれない。
 緊張ばかりでは、人間は持たないのだ。
 どこかで息抜きをして、ガス抜きをして、なんとか帳尻を合わせて生活をしていく。
 そんなことを考えていると、目の前に赤々と燃えている火がパチンと弾けた。
 途端に、夢から覚めたように意識が鮮明になって、目の前の焚き火に注意が向く。
 ぼんやりとした明るさと、暖かさから、うつらうつらとしていたのだろう。
 危うく眠って火を絶やすところだった。
 いつの間にか小さくなった火に、慎重に薪をくべて様子を見る。
 火は、じっくりと時間をかけて新たな餌にかじりつき、徐々にその身を大きく引き伸ばしていく。
 それからは、あっという間だった。
 火はみるみるうちに大きくなり、一段と強い明りと暖を生みだしていく。
 火に当たっていると、当たっている面は温かさを感じるが、暗闇に晒している背中は驚くほどに冷えて感じる。
 薪をくべた事だし、そろそろ寝ようかと、火の管理も早々に、荷物袋から毛布を取り出して身に羽織る。
 大樹に寄り掛かって身を安定させ、意識を混沌の闇へと落としていく。
 明日を無事、迎えられる事を信じながら――。
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短編 奪還へのカウントダウン
 ただならない緊迫感が周囲に広がっていた。
 場所は廃ビルの最上階。
 耳を澄ませば、外の喧騒が聞こえてくるが、それに耳を傾ける程の余裕はない。
 それもそのはず。
 片や拳銃を構える、制服姿の警官。
 片や、人質を盾に構える、上下黒で統一された衣服を着た男。
 人質になっているのは、制服姿の女子学生であり、過度の緊張とストレスからか、ぐったりとしている。
「人質を離せ――」
 警官の声がフロア内に響く。
 しかし、男はその言葉に応じることはなく、強気に声を上げた。
「こっちの要求を呑むのなら、な?」
 そう言うと男は人質の首元へと押し付けていたナイフの角度を鋭角に傾ける。
 女子学生の身体が一瞬強張り、ナイフの刃がわずかに肌に食い込む。
 幸いにも流血はしていない。
 だが、それも時間の問題のようだ。
 男は挑発的な眼差しで警官へ声を掛ける。
「なぁ、こっちは人質が死にさえしなけりゃ、どうとでもできるんだ。賢い判断ってのは、俺の要求を呑むことじゃないのかい?」
 警官は拳銃の焦点を必死に合わせようとしながらも、返す言葉もなくただ立ち続けている。
「なんだよ。増援がくるまでそうして待ち続けているっていうのか? まぁ、それはそっちの勝手だけどよ」
 失望したと言わんばかりの目で、男は深く溜息を吐いた。
 そして首元に押し付けていたナイフを離す。
 女子学生と警官の口から安堵の息が漏れ、一瞬ではあるが場の緊張がほぐれた。
 しかし――そのほぐれた緊張も、まやかしに終わる。
「じゃあ、こいつをここから突き落すか?」
 男の言葉で場の空気が凍りつく。
「――いや、やめて! いやっ、嫌ぁぁぁっ!」
「は、犯人が、その――人質を突き落とすと――」
 人質は大いに暴れ、警官も動揺を隠しきれず、無線で指示を仰ぐ。
 男は女子学生の拘束をきつくして抑え込むと、警官のいる方向を冷めたような視線で見つめる。
「……本当に、くだらねぇ」
 それは、人質の女子学生にも聞こえない、小さな小さな声。
 そんあ、混乱と焦燥、そして諦めが入り混じった空間へ新たに飛び込んできたのは複数人の足音だった。
 とたん、警官の顔に安堵の色が浮かぶ。
 その瞬間を男は見逃さなかった。
「ゲームオーバー……ってか?」
 人質を引きずりながら、窓際へと向かう男。
「おいっ、待てっ! 撃つぞ!」
「撃てるのなら、やってみな」
 人質を引きずっているせいで、男の体の半分は女子学生で隠れていた。
 このままでは、犯人どころか、女子学生まで命を落としてしまう――。
「止まれぇぇぇぇっ!」
 警官の叫びがフロアに響く。
 次の瞬間、発砲音が周囲に拡散し――騒然と驚嘆が無音を呼び寄せた。
短編 皆で思うは、美しき偽善に
 ふよふよと青い空を漂っていくのは人々の手を離れた風船たち。
 赤、橙、黄、緑、青。
 様々な色の風船が淡い空の青に鮮やかに映えていた。
 それは、みるみるうちに小さくなり、遥か彼方へ消えていく。
 風のいたずらに右へ左へ遊ばれながらも、気流に誘われて飛んでいくカラフルなドット。
 だが、人々の視線はもう風船には向けられてはいなかった。
 人々の瞳はしっかりと閉じられ、その瞼の裏にはいまでの思い出が浮かび上がる。
 皆で目を閉じ、合掌する姿は壮観であり、それと同時にどこか切なさをも感じさせる。
 人々の見つめる先にあるもの――それは、遠い異国の地にいるである自分の大切な人への想いだった。
 そこに笑いは一切存在せず、もし居たのであればそれこそ不謹慎だと注意を受けそうな程。
 全員が同じ方向を向いて、同じ感情を抱き、同じ想いを共有させられる空間。
 中には目元に涙を浮かべる者さえもいる。
 それは小さな子供でさえ例外ではない。
 見たことも、会った事もない人への想いを美しく描かされているのだから。
 それこそ、周囲の人間たちの美徳を満足させるための道具に過ぎない。
 人間の胸の内は決して他者に知られることはない。
 それこそ、悟りや悟られといった存在でも居ない限りは。
 この国は、道徳や美徳、理想が美しくも空想的な国なのだ。
 とりあえず、周りが満足するようなことでも言っておけば、ふりをしておけば、咎められることは無い。
 建前を言えば、心優しく他人想いの人になる。
 だが本音を言えば、関係ないことだけど、付き合いだから仕方ない。
 極端に言うのであれば、本音は悪で建前は善なのだ。
 そんな人たちで溢れた世界。
 そこで生活していく術を、子供の時から強いられている。
 近い将来も、遠い未来も、その風潮は伝統として続いていくだろう。
 この伝統が良いものか、悪いものか。
 今の人間は良いものと捉えるに違いない。
 ただ、未来までこの風習が続いた時――この国はどうなっているのか、知る者はいない。
短編 冬のある日
 白い雪が舞い降る世界。
 一般的にはロマンチックだとか幻想的だとか言われるけれど、少女にとっては全くもって別物だった。
 傘もささずに、降り積もった雪をコート一枚で掻き分け進む姿は、某外国を舞台にした童話を彷彿とさせる。
 吐く息は白く、対照的に頬は真っ赤に染まっていた。
 一歩の足取りも時間の経過と共に徐々に重くなり、そのペースは今では亀の歩みと化していた。
 溜まりに溜まった疲れのせいだろうか、少女の身体が大きく揺らぐ。
「――っ!」
 雪の絨毯へと飛び込む少女の口から、声は聞こえては来なかった。
 声を出す間もなかったというわけではない。
 声を上げるだけの体力も、もう少女には残っていなかったのだ。
「……ぁ、……あぁ」
 紅くなった頬と、逆に青くなった唇。
 それらが雪の白の中に埋もれる。
 少女の瞳には涙が浮かび、視界をぼやけさせていた。
 降り続く雪は止む素振りを見せない。
 延々と降り続く雪たちは、少女の体を優しく包み込み、その姿を覆い隠していった。
 冬の寒さに身を震わせながら、町の人々がその脇をサッサッと進んでいく。
 空はどんよりと曇ったまま。
 少女の姿は白の中の暗闇へと消えていく。
 そして、少女が再び他者の目に付いたのは、もう数日後のことだった。
短編 魔法の小人
 卓上照明が、机の上を明るく照らし出していた。
 部屋の窓では厚手のカーテンが日光を遮断し、蛍光灯もスイッチが入っていないのか、消灯したままだ。
 照明の小さな光が机に突っ伏した男性の後頭部を延々と照らし続ける。
 男性の顔の下にはびっしりと文字が書きつづられたノートと数学の問題集。
 手中にはシャープペンシルが握られたままだ。
 勉強中に力尽きたのだろう、黒鉛のラインがノートをはみ出してミミズが這ったようにうねうねと机上に続いていた。
 暗闇が広がる室内に男性の静かな寝息が上がる。
 無音で時間の変化を告げ続けるデジタル時計のディスプレイは午前4時を示していた。
 大きな環境音も、生活音もまだ目覚めていない空間。
 そこに変化が起きたのは、ほんの一瞬の間だった。
 どこからともなく、ひょっこりと顔をのぞかせたのは親指サイズの小さな人間だった。
 その数はざっと8人。
 赤、青、緑、黄色……皆が単色の服を上下に身につけ、カラフルな色合いを醸し出している。
「おかたづけ~」
「おかたづけ」
「おかたづけ~?」
 皆が口々にそう言いながら、機敏に動きだす。
 ある者は男性の髪の上を滑り下りるように。
 またある者は机上に置かれた腕をよじ登って。
 またある者は数人で肩車をして。
 各々の方法で『お片付け』を進めていく。
 小さな人間たちは、その身からは考えにくいような力強さで男性の腕を、顔を、頭を持ち上げて、ノートや問題集を引き抜きにかかる。
「おかたづけ~」
「おかたづけ?」
「おっかたっづけ~」
 それが生きがいとでも言わんばかりに、軽快な口調で口ずさみつつ、彼らは作業を続けていく。
「おわり~」
「おわり~?」
「おわりっ」
 引き抜かれたノートや問題集はキレイに整頓され机の上に重ねて置かれていた。
 筆記用具もペン立てに収納され、小人たちはその様を眺めながら満足そうにうなずく。
「しあげ~」
「しあげっ」
 小人は次々に肩車の要領で重なっていくと、卓上照明の紐へと手を伸ばす。
「とうっ」
 一番てっぺんの小人が紐に飛び移るとライトが消灯し、真に真っ暗な空間がそこにやってくる。
 スイッチが切られる音を最後に、男性の寝息をのぞいた全ての音が部屋から消え去っていった。

「……あれ?」
 デジタル時計のベルが鳴り、男性は意識を浮き上がらせる。
 時間は午前6時。
 持ち上げた頭はすぐに傾けられる。
「あれ? 勉強……してたよな?」
 その独り事に、答える声はない。
「まぁ、いっか」
 男性は頭をかきながら席を立つと、大きく伸びをしながら部屋を出ていった。
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