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短編 車窓から見た夏風景
 車窓から見える風景は、流れるように後方へ遠ざかっていく。
 レールの継ぎ目を通過する際の振動が、程良い揺れと音を引き連れて眠気を誘う。
 車内に他の乗客は見られない。
 地方の在来線――それも末端の方となるとそれも当然なのかもしれない。
 これが早朝や夕方なら、まだ通勤通学の学生や会社員の姿も見られたのだろうが、今は自分の独り占めだ。
 次の停車駅までは、時間的に後十分程度かかる予定。
 それまでの間は、この時間が続くのだ。
 流れていく景色の中に見える、季節の変化と町の雰囲気。
 今も青い空には小柄な入道雲が、存在感を示すように漂っている。
 じっとしていると汗だくになりそうな車内にも、わずかに開け放たれた窓の隙間から涼やかな風が流れ込む。
 ひと時の涼を運んで来てくれた風に感謝しながら、昔ながらの街並みに思いを馳せる。
 窓を大きく開くと、一気に風が入り込んできた。
 それと同時に虫たちの大合唱も耳に聞こえてくる。
 あまりの大音量に、反射的に顔をしかめてしまう。
 結局開いたのは数秒で、すぐに元の位置まで窓を閉めた。
 閉め切った車内といっても、田舎の電鉄だ。
 完全に閉じ切らなかったその隙間から、空気は絶えず流れ込んでくる。
 廃車ももう間近だろう。
 それよりも廃線の方が先だろうか?
 その辺りの事情はわからないが、この路線に新しい車両が顔を連ねる事は考えづらい。
 まぁ、利用者が爆発的に増えたりすれば話は別なのだろうが、それも絵に描いたモチだろう。
 あと一カ月もしなうちに、暑さも弱まり夏の終わりがやってくる。
 その頃には夏の虫たちも息をひそめ、秋の虫たちへとその役割を譲ることになるだろう。
 ぼんやりとそんなことを考えていると、いつの間にか走行速度が落ちている事に気が付いた。
 次いで、車内にアナウンスが流れる。
 もうじき駅に到着するらしい。
 窓から見える光景も、変わり映えのない整備されたコンクリートらしき壁一色になり、乗る者の興を削ぐ。
 電車は速度をゆっくりと落としていき、停車した。
 窓の外には無人のホームが見える。
 どうやらここはいわゆる無人駅という所らしい。
 ドアが開き、アナウンスが流れる。
 停車時間もそれほど長くはないようで、やはり乗ってくる者の姿もない。
 結局、大した変化もないままドアは閉まり、電車は再び走り出す。
 流れ始めた車窓の風景に再び目を向けながら、目的地までの時間つぶしをどうしようか、頭を悩ませるのだった。
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短編 睡蓮の朝
 睡蓮の花が水面に浮かぶ。
 辺りは薄暗く、夜の闇によって天地水の境界線があやふやになる。
 これといった明りもない。
 生き物の動く気配もない。
 あらゆる生き物が眠りの真っただ中で、天に浮かぶ星ばかりが、ゆっくりと動き続けていた。
 そんな黒一色の風景の中に、白い花弁がぼんやりと浮かんでいる。
 時間はもうすぐ、日の出の刻を迎える。
 東方の山の上より、黄昏の光が長く伸びる。
 暗闇に侵食された空も、少しずつ白みが増してくる。
 夜の支配する時代は終わったとでも言うように、空の色はあっという間に入れ替わる。
 黒から紺へ。
 紺から薄紫へ。
 薄紫から黄金色へ。
 それに伴い、星たちも逃げるようにその姿を隠す。
 代わりにやってきたのは丸く大きな光の珠。
 山の上へと顔を出したその珠は、空ばかりでなく山や森、そして湖をも黄金色に染め上げる。
 燃えるような光の中、いち早く目覚めたのは湖面を漂う睡蓮の花。
 不意に吹いた風に、黄金の水面が波立つ。
 広がる波紋に煽られるように薄桃色の花が優しく開いた。
 それが合図とでもいうように、小鳥の囀りが響き渡る。
 次いで木々のざわめきが。
 そして、水中に居た魚の跳ねる音が聞こえ、消えていく。
 それは、太陽が空高く昇るまでの短い間のこと。
 黄金色のひと時は、すぐに爽やかな朝の時間へと姿を変える。
 湖面もいつしか濃い青色に変わり、睡蓮の花の美しさをより一層引き立てている。
 カサカサという草をかき分ける音と共にやってきたのは人間の手のひらサイズの小動物。
 水を飲みにやってきたのだろうその小動物は、湖畔の広場でふとその足を止める。
 見上げた先に居たのは、青空を飛び去っていく鳥の影と羽音だった。
 動物は、天敵が去った事を知ると、止めた足を再び動かして湖の縁まで向かい、今度こそ喉を潤す。
 人の姿もない、寂れた山の一角。
 そこに広がる、広大な湖。
 人知れず行われる生命の営み。
 美しくも儚いひと時が、そこで繰り広げられる。
短編 弱肉強食
 見世物小屋の中に居る動物は、どんな気持ちなのだろう。
 動物は知能が低いから、大丈夫だという声も聞く。
 しかし、知能の高い低いに関わらず、外部からの刺激は受ける。
 好奇の眼差し、優越感、嘲笑……それらの感情が空気を通じて檻の中にまで伝わってくる。
 与えられた餌を口にして、寝て起きての繰り返し。
 それを幸せと取る者もいれば、不幸と取る者もいる。
 だが、当人が望まぬ境遇を与えているのは事実。
 人間の身勝手が招いたことに変わりはない。
 一方、人間の身勝手を批判する者もいる。
 人間はもっと謙虚に、自然に感謝して生きるべきであり、他の動物や植物に迷惑を掛けるべきではないのだと。
 しかしながら、それもどこか筋違いだ。
 生き物は皆、生まれながらにして身勝手に生きている。
 誰も他者の為に生きてなどいない。
 自身がより良い生活を送るために、他者に迷惑をかけて生きているのだ。
 その中で、人間だけが周りに気を遣っている。
 いや――気を遣うという名目の下、自身の利益を奪おうと必死になっているのだ。
 正義という名の隠れ蓑に身をひそめながら、手ごろなターゲットに狙いを定め、絞り取る。
 その蓑の下には、よだれを垂らした真っ黒い存在がなりを潜めているというのに――。
 誰も声を上げない。
 誰も関わろうとはしない。
 誰も本質を見ようとはしない。
 世界は関心と無関心でできている。
 自らの保身のために無関心を貫き、他者を食い物にする為に関心を抱く。
 それは、社会的な弱肉強食。
 敵を作り、陥れて、金を得る方法。
 助ける者など誰も居ない。
 みなが理由を付けて無関心を装う事案。
 生きるか死ぬかの二択を迫る、自然界のそれとは全く異質であるが、内容は驚くほどに類似した生態系。
 檻の中の動物は何を想い生きるのだろうか。
 死への不安から脱出できて喜んでいるのだろうか。
 それとも未だかつて抱いた事のない恐怖におびえ生きていくのだろうか。
 いずれにしろ、それを餌に金を喰らう人間たちに、そんなことを考えるだけの頭も思考もない。
 人間という面倒で、陰険な社会を造った生物は、地球の長い歴史の中でも初めてではないだろうか。
短編 銃と少女の使い方
 指先でくるくると拳銃を回すと、銃口にフッと息を吹きかけ、そのままホルスターへと仕舞う。
 微かに残った硝煙の香りが鼻腔を強く刺激して思わず顔をしかめてしまう。
「――もう、格好を付けてそんな真似するからよ」
 隣で溜息を吐きながらそう言い放つのは、先輩のガンナー。
 ガンナーというのは、職業のひとつで主に重火器を使って戦闘を行う人々の事を指している。
「でもでも。一度はやってみたいじゃないですかぁ」
 頬を膨らませて先輩へと抗議をするのは小柄な少女。
 だが、先輩はその姿を見ても冷たくあしらう。
「そういうのは、男相手にやってちょうだい。私にはそういうの全く効かないから」
「えぇ~っ、ひどいですよ~」
 体を左右にくねくねと揺らしながら、先輩へと擦りよる少女。
 それに合わせてサラサラの髪の毛も左右へと揺れる。
「えぇい、やかましい。さっさと離れなさい!」
 先輩は少女の頭をぐいと押して距離を取ろうとする。
 しかし、少女は唇を尖らせて甘い声を上げた。
「先輩、冷たいですよ~。もっともっと、コミュニケーションをとりましょうよ~」
「だから、そういうのは私はいらないんだってば! 新米は新米らしくもっと私を敬いなさいよ」
「ですから、これが私なりの愛情表現なんですってばぁ~っ!」
「おいっ、ちょっと……こらっ、腰に抱きつくな!」
「ちょっとくらい、いいじゃないですか~」
「だから、そういうのが邪魔なんだって!」
 女性二人のやりとりに、周囲は自然と距離を取っていた。
 それに気付いていないのか、当人たちは相も変わらず言い合いを続けている。
 そんな中、先輩のガンナーがしびれを切らした様子で銃を少女へと突きつける。
「離れろっ! もう撃つぞ!」
「大丈夫です。先輩はそんなことをしない人だってわかってますから――」
 少女の言葉に、先輩は口元を歪め、額に青筋を浮かべる。
「……やっ、やかましいわっ!」
 顔を真っ赤に染めて、先輩は銃のトリガーを引く。
 発砲音が周囲に響き、一瞬の静寂が訪れる。
 しかし、それも少女の声によってすぐにかき消された。
「もう、空砲だってのはわかってるんですよ? セ・ン・パ・イ?」
 頬ずりするくらいの勢いで、少女は先輩の顔へ自らの顔を近づける。
 しかし先輩の体は限界をとうに超えているらしく、ぷるぷると震えていた。
「――いい加減にしろっ!」
「――いった~いっ!」
 頭のてっぺんを押さえながら、少女がその場にしゃがみこむ。
 その瞳には大粒の涙が浮かんでいた。
「そこまで力を入れて殴る必要はないじゃないですかぁ~」
 しかし、少女の声は届かない。
「…………あれ?」
 視線を上げると、先輩の背中はもう遠ざかっていた。
「ちょっと、待ってくださいよ! せんぱ~い!」
 少女はすぐに立ちあげあり、彼女の後を追う。
 その気配に気付いたのか、先輩も突然駆け出した。
 二人の追いかけっこは十分以上も続いたのだった。
短編 付添い
 ブザーの音が鳴り響くこと数秒。
 館内の照明は徐々にその明度を落とし、辺りには暗闇が広がり始める。
 周囲に漂っていたざわめきも、それに伴いわずかながら音量が下がった。
 一面に広がる座席とそこから所々飛び出している頭。
 それらを眺めながら、少年はこれから始まるものへの期待が隠せずにいた。
 少年は容姿から、おおよそ小学校低学年だと察する事ができ、周りに座っている子供たちも同じくらいの年齢層が並んでいる。
 それもあってだろうか、少年は急にそわそわと動きだし、ひじかけを掴んだまま足をばたつかせたり、座席の上で小さく飛び跳ねたりしている。
 それを優しく制すのは、付き添いでやって来たのであろう、しわだらけの顔をした祖父と思われる男性だった。
 男性は少年の頭を優しく撫でると、そのままわずかに力を込めて座席へと押し込む。
 少年はムッとした表情を浮かべるも、大人しくなり正面に見えるスクリーンへとその視線を移した。
 スクリーンにはぼんやりと明りが差し、映像が浮かび上がる。
 少年の顔がスクリーンに集中され、周囲のざわめきも消え去った。
 だが、それも一瞬の事。
 流れ始めた別作品の予告に、一度は静まったざわめきが再び顔をのぞかせる。
 少年も期待を裏切られたのか、退屈そうに足をぶらぶらと前後させた。
 その様子に気付いているのかいないのか、付き添いの男性は大きく欠伸をしながらスクリーンに流れる映像を目で追っていた。
 テレビのコマーシャルと同様に、こちらの意図を介す事なく延々と続いていく映像。
 流れる音声も、本番のそれと同様に大きく、耳にうるさいものだった。
 それ故に子供たちの不満の声もかき消し、大人の事情を貫き通す。
 そして、不意に予告の流れが止まった。
 一瞬にして訪れた静寂。
 そこには子供たちの期待と、大人たちの安堵が渦巻いていた。
 付添いの男性は、しわだらけの顔を緩めて隣に座る少年へと目を向ける。
 そして、少年が目の前に繰り広げられる創作の世界に瞳を輝かせる姿に、自然と目を細め――瞳を閉じるのだった。
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