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短編 決闘
 その一撃が放たれたとわかった瞬間、俺は反射的に腕を交差させて守りの姿勢に入っていた。
 次の瞬間、激しい衝撃が腕に加わる。
「――ぐっ!」
 とっさのことだったので、重心を低く保つ事も叶わず、俺の身体は力の作用によって後方へと吹っ飛んでしまう。
「こっ……このっ!」
 なんとか転倒する前に足に力を込めて踏みとどまろうと試みる。
 爪先を地面にひっかけるようにして、足全体に力を込める。
 ガガガガと固い大地が悲鳴を上げる。
 しかし、それは俺の脚も同じだった。
 通常込めているものの、何倍もの力が俺の両足に加わると、脚が一気に膨れ上がり今にもつってしまいそうな程だ。
 だが、必死に堪えた甲斐もあってなんとか転倒は免れる事が出来た。
 背筋を使い、反り返った身体を元の姿勢へと戻す。
 こちらからは何のアクションもしていないのに、全身に疲労感を覚える。
 だが、第二撃があるかもしれない。
 万が一に備えて緊張は解かずに、相手の出方をうかがった。
 しかし、相手が近づいてくる気配は感じない。
 余裕の表れなのか、それとも深追いはしない性質なのか。
 どちらにしろ、こちらにしては好都合だ。
 俺は腕を降ろして、強張った身体をほぐしていく。
 真っ直ぐ伸ばした視線の先には、俺をここまでふっ飛ばした張本人が肩を回しながら突っ立っている姿が見えた。
「たった一撃もらっただけなのに、これじゃあ先が思いやられるな」
 思わず口から笑いが漏れる。
 ダメージがじわじわと思いだしたように全身に広がっていく。
 一度深く息を吐いて、心身ともにリフレッシュする。
 ――今度はこちらの番だ。
 やられた分をやり返すだけの気概で、こちらから突っ込んでいく。
 全身に覚えていた疲労だとか痛みだとか、全てをその場に置き去りにして、相手へ一撃をくれてやる事に全力を注ぐ。
「これで、あいこだぁぁぁっ!」
 はやての如き速さで繰り出された拳。
 相手の険しい顔が、驚きに染まっていくさまがスローモーションで見えた。
 次の瞬間、俺の目の前には、遥か遠方まで伸びる二本の轍が、相手の両足によって描かれていた。
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短編 ハーモニカ
 東方の空にうっすらと赤みが差してくる時間帯。
 深い眠りについていた町も、徐々に目を覚まし始める。
 早朝という事もあり、気温は肌寒さどころか痛みを覚えるほどに冷え込み、厚着をしていなければすぐさま風をひいてしまいそうな程だ。
 そんな町の端の方。
 平たい屋根の上に腰を降ろしながら、通勤や通学中の人々を見下ろす人物がいた。
 灰色のセーターに茶色い綿のズボン。
 首周りにはセーターよりも濃い灰色をした毛糸のマフラーを巻きつけられている。
 そして、少年とも青年とも判断付き難い、ちょっと幼さの残る顔立ち。
 吐息はすぐさま白く染まり、白煙の様に空高くへ昇っていこうとする。
 どれだけの時間、そこに佇んでいたかは不明だが、恐らく長い時間そこに居たのだろう、彼の顔や耳は赤く染まっていた。
 しかし、彼はいつまで経ってもその場を動こうとはしない。
 チリボコリでうっすらと土色に汚れた青い屋根の上。
 そこで彼はじっと何かを待っているかのようだった。
 時は流れ、太陽も伸びをするかのようにゆっくりと空へ昇っていく。
 太陽がその全貌を、少しずつではあるが見せていく。
 それに従い、暗闇が差し込んでいた街並みに黄金色の輝きが宿っていくのが目に見えてわかった。
 それは屋根の上の彼にも変化を与える。
 黄金色の染まる世界。
 光の中に溶け込むかの様な錯覚さえ覚えてしまいそうな、まばゆい光。
 その中心で彼は懐に隠し持っていた四角い何かを取り出した。
 容赦なく差しこんでくる朝陽を反射する銀色の箱。
 それを口元に近づける。
 数秒の間を置いて、周囲に流れていったのは和音のメロディだった。
 静かだった朝の町に、華やかな音色が響きわたる。
 それは、例えるなら黄金色の音とでも言えるだろう。
 黄金色の陽射しの中、それを音で表現するかのような温かくも、どこかとがっていて、でも美しい。
 そんなメロディに道行く人も、一瞬足を止めては音楽の聞こえる方向へ顔を持ち上げる。
 突如として開催された朝の独奏会。
 それは、朝陽が完全に顔をのぞかせ、白色の光を全体へ降り注がせるまで続いていった。
短編 ガラス【過激な表現が含まれるので注意】
 手にしたガラスの器を煽り、口を開く。
 すると、カランカランと小高い音を立てながら、中に入っていたガラスの破片たちが口の中へ我先にと流れ込んできた。
 乱雑に、そして不均等に砕かれたガラスは自らに触れる者皆を傷つけようと鋭い刃を向ける。
 もちろん自身もその例外ではない。
 口腔に入るや否や舌の上に熱い痛みが走る。
 小さな破片は歯茎へ突き刺さり、白い歯に傷を付けて更に奥を目指していく。
 血の味が口中に広がり、透明なガラスを赤く染め上げた。
 身体が拒絶しようと、吐き気をもよおす。
 しかし、一度は逝ってしまったガラス片は元の場所へ戻ることはない。
 吐き気と痛みを覚えながらも、それを身体に刻み込ませるようにガラスたちは喉奥をひっかき、食道を下っていく。
 飲み込む動作一つにも激痛が走り、目や鼻からは体液が漏れ出た。
 口端からは赤い液体が溢れ出て、顎を伝い足元へと落下する。
 そして、器の中味がすべて口へと注ぎこまれた。
 まるで糸が切れたように、手にしていたガラスの器が手からこぼれ落ちる。
 重力に従って落下したガラスの器は、甲高い音を立てて足元で割れた。
 その破片は勢いよく飛び散り、足に小さく傷をつける。
 痛みと呼ぶにはいささか力不足な傷。
 しかし、それでも体表近くの血管を破るには十分だったようで、赤黒い血が足元へトクトクと広がっていった。
 足元に広がる二種類の血溜まり。
 一つはどぶのように黒く、一つは上質のワインのように鮮やか。
 自分の身体から出た物なのに、全く違う色をした液体が流れ出ている。
 それを目の当たりにして、笑いがこみ上げてきた。
 しかし、おかしいのに笑い声を上げることはできなかった。
 ズタズタになった口の中は動くだけで傷口が開いて出血し、口中が血の海となる。
 喉の奥も痛みはそれほどではなかったが、声を出そうとすると食道がヒリヒリと裂けて、口から入った空気が抜けていくのがわかった。
 飲み込んだガラスがずっしりと腹の中に重く残る。
 きっと今頃は、破片のいくつかは胃を食い破って身体のどこかに突き刺さっているのかもしれない。
 自分の身体でそれが起こっていると思うと、またおかしくなってきた。
 感覚がもう麻痺しているのだろう。
 口周りは真っ赤で、誰かがこの姿を見たら卒倒でもするのではないだろうか。
 悠長にそんなことを考えながら、周囲を見渡す。
 しかし、そう簡単に人がやってくるわけもない。
 口から血があふれ、ガラス片と共に嘔吐する。
 傷口が悲鳴を上げ、より一層広がった気がした。
 カランカランと音を立てて足元にガラスの破片が飛び散る。
 体外へ飛び出たガラスは、血溜まりの赤を吸ってきれいなピンク色の輝きを放っていた。
短編 墓標
 真正面から吹き抜けていく風に、私は思わず顔をしかめた。
 ほんの少しではあるが、血の香りが混じっていることが理解できたからだ。
 今の所、進行方向にはそれらしき気配はない。
 目の前に広がるのは、今の所静かにたたずむ林ばかりだ。
 もっとも、この林を抜け出た先に何が待っているかは、まったくもってわからないのだが。
 用心をしておくに越した事はないだろう。
 私は念の為、護身用に携帯していたナイフのホルダーに手を添える。
 サイズは刃も含めて、自分の掌二つ分。
 障害物の多い路地や森の中でも自在に扱えるようにとの思いもあってのことだ。
 スムーズに出し入れができることを再度確認する。
 少し引くとホルダーの中から、血を吸ったことの無い刃が顔を出し、銀色の光沢を放った。
 これなら切れ味に問題はないだろう。
 私は再びナイフを仕舞うと、改めて足を進めていく。
 木々のざわめきが少しずつではあるが大きくなってきている気がした。
 恐らく、出口が近いのだろう。
 血の臭いがだんだん強くなってくる。
 自ずと足取りは重くなり、緊張が全身に張り詰めてくる。
 それを増長させるように、不意に木々のざわつきが消えた。
 途端に訪れた静寂。
 それを耳にした私の頭に一つの疑問が浮かぶ。
 何の気配も感じないのだ。
 もし、争いがあったり、終わった後であるなら、誰かしらの気配を感じるはずだ。
 しかし、それがないということは、もしかしたら大分前に争いは終わっているという事になるのではないだろうか。
 もしくは、本当に見えないほどの遠くで流れた血潮の香りが、遠路はるばるやってきたか。
「――うっ!」
 いよいよ血の臭いが濃くなり、後者の考えがもろくも消え失せる。
 どうやら、この向こうに現場があるようだった。
 恐る恐る木々の合間から顔をのぞかせ、様子をうかがう。
 そこには真っ赤に染まった大地と、当事者の持ち物と思われるであろう長剣が木の根元に深々と突き立てられていた。
 墓標か、そういった類の何かなのだろう。
 その証拠に剣の下の土が若干ではあるが小さく盛り上がって見えた。
「……埋めるというのは、供養の気持ちはあるってことだよな」
 恐らく、誇りを賭けた戦いでもあったのだろう。
 事の真実は不明だが、気にかけても仕方がない。
 私は自分の身の安全に安堵し、深く息を吐く。
 そして、鼻にこびりつきそうな程に強く漂う血の臭いを振り払うように、その場を後にした。
短編 白+白=?
 白い壁、白い床、白い天井。
 ――そして、白いベッド。
 白一色で囲まれた部屋の中は、窓から迷い込んだ光を奥へと誘い込み、外へ逃がそうとはしない。
 そのおかげもあって、室内は照明など意味をなさないほどに明るかった。
 ベッドは部屋の中央に置かれていた。
 脇には小さな戸棚と丸椅子。
 しかし、そこには花瓶も見舞いに来た人の姿もない。
 ――それは、完全なる静寂だった。
 ベッドの上で横になりながら、重くなった体を無理に動かそうとする。
 だが、骨が浮き出るまで痩せこけた腕では、それすら叶わない。
 仕方がないので小さく息を吐いて視線だけをより明るい場所へと向ける。
 まばゆい光の束。
 それらが一斉に瞳に飛び込んできて、思わず目を細めてしまう。
 でも、少しだけど嬉しさも感じていた。
 肌に感じた温かさ。
 もしかしたら、ただの思いこみかもしれない。
 それでも良かった。
 自分にまだ、温かさを感じるだけの感覚が残っていた事がわかったから。
 嬉しくて、楽しくて、笑ってしまいたくなって。
 ――でも、笑うだけの力は残っていなくて。
 目元が少しだけ柔らかくなったと、少し前に看護師さんが言っていたのを思い出す。
 あの時も確か笑っていたはずだ。
 きっと、その時と同じ顔を、今もしているのだろう。
 視線を光のど真ん中から、殺風景な白天井へと戻す。
 そして、ゆっくりと瞳を閉じた。
 世界が眩しすぎて、目を開けていられなかったから。
 目蓋が下りているのに、世界は明るいままだった。
 薄い皮一枚じゃ、こんなものなのだろうか。
 そんなことを思っていると、不意に眠気が襲ってくる。
 今まで過ごしてきて、こんなことはなかった。
 でも、不思議と温かい気持ちに包まれる。
 ……そうか、自分はもう、逝くのか。
 絶命へのカウントダウンが始まる。
 しかし、不思議と焦燥感も不安もなかった。
 こんなに穏やかな気持ちで終われるのなら、それ以上を望むのは酷というものだ。
 苦しまずに逝きたい。
 たった一つだけだったけど、神様は一番の願いを叶えてくれたらしい。
 意識にもやがかかる。
 意識と無意識の境界線があいまいになる。
 そして、次の瞬間――白い部屋に白が一つ加わった。
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