IPPI STYLE
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短編 虹の砂
 幾十、幾百の人が行き交う、賑やかな通り。
 立ち並ぶ露店からは、威勢の良い声かけが響き、道行く人々を呼び止めようと必死だ。
 そんな通りの端。
 中央部に比べ、人の数はそれほど多くはないが、賑わいでいると呼ぶには十分な人数が動き続けている。
 そんな中、一切の呼び込みも声かけもない店の店の前で、一人の少女が歩みを止めた。
 少女の瞳に映ったのは、一見、何の変哲もない白っぽい砂。
 それを扱っているのは、年は二十代後半と思われる若い男性で、それ以外の店員の姿は見られない。
 この男性が店主と見て間違いはないだろう。
 しかし、店主のパフォーマンスなのか、その砂を空気に含ませるように高い所から低い所へ流すと、太陽の光を浴びて、虹色の輝きが放たれ、少女の興味は一気にそこへと釘づけになる。
 パフォーマンスに夢中になっていた店主も、少女の視線に気付き、その手を休める。
 まるで生き物のように滑らかに流動していた砂は再び器の中に収まり、元の白い姿へと戻っていく。
「おひとつどうだい? 今なら安くしとくよ」
 軽く、フレンドリーな口調でそう言うと、店主らしき男性は少女に話しかける。
 声を掛けられた少女は一瞬ビクリと肩を震わせるが、恐る恐るといった様子で店の前まで近づく。
 少女の肩ほどの高さまであるテーブルの上をなんとかのぞこうと、少女は懸命につま先立ちをする。
 その様子のあまりの愛らしさに、男性は笑みを絶やさずにはいられなかった。
 しかし、待てども待てども少女は言葉を発することはなかった。
 お金を持っていないのだと悟った男性は、肩をすくめると再びパフォーマンスに移る。
 砂の器を持ち上げ、もう片方の器へと流し込むだけの簡単な作業。
 たったそれだけのことなのに、その場には虹がかかったかのように、美しい虹色の輝きが姿を現す。
 途端に少女の顔にも輝きが満ちる。
 お客と呼ぶには幼すぎる少女。
 少女が張り付いているせいか、それとも単に皆が興味を持っていないだけか、それから店の前で足を止める者はいなかった。
「まぁ、お嬢ちゃんがいるだけいいか」
 小さく溜息を吐きながらも、男性は虹を生み出し続ける。
 少女は首をかしげながらも、すぐにまた、生まれ行く虹の行く末を眺めていた。
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短編 お菓子の家
 お菓子の家と言えば聞こえがいいが、実際そこに住むとなると悩まずにはいられない。
 とはいっても、子供の夢と希望を体現したような存在である奇妙奇天烈な創作物は、いつの時代も幼い心をとらえて放さない。
 チョコレートの扉に、クッキーの壁。
 飴細工の窓ガラスに、キャンディの柱。
 屋根もケーキのクリームが波を打っていて、その上にはゼリービーンズが彩りを添えている。
 ただ見ているだけでも口の中が甘くなって、何か飲み物が欲しくなりそうだ。
 壁のクッキーを剥がして手にとって、繋ぎとして使われているクリームをすくって口に含む。
 クリームの口に残る甘味とクッキーの後味引かない甘味が合わさって、程良い後味が口の中に広がる。
 また、違う味が欲しくなった頃に手が伸びるのが、酸味の効いたサワークリームや、ラムネ菓子。
 甘味と酸味を交互に味わいながら、お菓子の家を食べ進める。
 口周りを汚してしまわないかなんて、そんなことを気にしてはいけない。
 自分の欲求に素直になって、好きな物を好きなだけ口にするのが今の自身にとって一番大事なことなのだ。
 カロリーが気になるだとか、これ以上は太ってしまうだとか、そんな事を気にする母親を尻目に、好きな物を好きなだけ堪能できるという、夢のような家。
 食べて、食べて、食べ続ける。
 しかし、いくら食べてもお菓子の家はなくなることはない。
 どうやって復活しているのかもわからない。
 それでも、お菓子の家は次から次へとお菓子が湧き出ているかのように、一向に減ることはなく、自分のお腹だけがふくれていく。
 おかないっぱいにお菓子を食べる。
 そんな夢に対しての応えがここにある。
 周囲に映えている草葉は緑色をした砂糖菓子。
 木の幹はチョコレートでコーティングされたビスケット。
 空に浮かぶのは綿菓子で、青色の空ももしかしたらソーダのジュースかもしれない。
 周りに見える物すべてがお菓子に見えてきて、世界が輝き始める。
 太陽が放つ光が、あらゆる物体に光沢を生み、より活き活きとさせる。
 朝から晩までお菓子尽くし。
 誰もが抱いた夢を、いつから忘れてしまったのだろう。
 大きくになってから後悔し、そして懐古に浸る。
 そんな大人たちを尻目に、子供たちは夢を求めて走り回っている。
短編 恵み
 石畳が続くモダンな街並みをジーンズとTシャツ、そしてジャケットというシンプルな出で立ちで歩く。
 足を踏み出す度にポケットに入れた小銭同士が激しくぶつかり、チャリンチャリンと鈍い金属音が周囲へ漏れ出る。
 たくさんの人が行き交うメーン通りは、他人を気に掛ける事もなく自分の用事の為に足早に進んでいく人ばかり。
 しかし、一つ裏の通りへ足を進めると、そこは社会から漏れ出た人の溜まり場――スラム街が広がっている。
 路地を抜け、裏通りに出ると、そこに広がる光景に思わず足を止めた。
 路上で横になっている人や、薄汚れた布切れを羽織っている人、手足が異様に細くなった子供に、怪我でもしたのだろうか、顔が歪に歪んだ老人など、自分とは別世界と思えるような境遇に陥っている人々で溢れていた。
 だが、彼らに気を留めてはいけない。
 こちらが見ているとわかると、彼らは金銭を恵んでもらおうと、無尽蔵に群がってくるのだ。
 一度止めた足を、すぐさま動かして通りを歩く。
 その際、視線は絶対に下へと向けない。
 目的地付近にあるモーテルの看板を探しながら、黙々と歩き続ける。
 それでも、ポケットから漏れ出る小銭のハーモニーは、浮浪者を呼び集めるには十分すぎる効力を持っていた。
 一人、二人と続々と取り巻きは少しずつ増えていき、いつしか前後左右、あらゆる方向に浮浪者が集まっていた。
 このまま襲われては、こちらに勝ち目はない。
 身の危険を感じ取り、とっさに足を止める。
 周囲も何かの気配を察したらしく、一緒に足を止め、期待の眼差しでこちらを見つめてくる。
 蛇ににらまれたカエルということわざがあるが、これはさながら蛇の大群だ。
 軽く舌打ちしながら、ポケットへと手を突っ込み、銀貨を数枚握る。
 そして、ポケットから手を抜くと、そのまま群衆目掛けてコインを放った。
 すると、自分を除いたすべての人間が、銀貨に飛び付き、取り合いを始めた。
 自分の周りから瞬く間に消え去った浮浪者。
 険しい表情のまま、がらがらになった前方の通路を、何事もなかったかのように歩いていく。
 ポケットの中にはまだ数枚銀貨が残っていたが、皆は放られた銀貨に夢中で、こちらを向く者はいなかった。
 溜息混じりに足を運ぶ。
 目印のモーテルの看板が、遠くに小さく見えた。
短編 黒粒
 暗闇が街を訪れた。
 世界を丸ごと覆い隠すほどの大闇。
 待ちに住む人々はなすすべもなく、暗闇に呑みこまれていく。
 家の中に避難する者や、遠くへ逃げようとする者も中には居たが、全てが無駄に終わる。
 暗闇は、韋駄天のごとき速さで人々に追い付き、追い越していく。
 暗闇が過ぎ去ったあとには、生き物の気配はまるでなく、残っているのは裸の大地と、宅地だった石造りの壁や箱ばかり。
 しかし、暗闇は進めども進めども、満足をすることなく先へ先へと進んでいく。
 それはまるで底なし沼のよう。
 暗闇は、世界のすべてを飲みこもうかという勢いで、あてもなく進んでいく。
 そのスピ―ドは速まる事はなかったが、遅くなる事もなかった。
 世界を食いつくして生きる、黒い闇。
 この星を食べ尽くすのも、時間の問題だった。
 そして、全てを食べ尽くした時、暗闇は己を喰らい始める。
 とある世界の、とある生態系。
 始まりと終わりが、そこにあった。
短編 カクテル・パーティ
 程良く温度調節された部屋の中、スナック菓子をつまむ。
 テーブルの上には大きく口を開けたスナック菓子の袋に、市販のカクテルが入ったグラス、そして愛らしいピンク色のノートパソコン。
 テレビもオーディオもない部屋は静寂そのもので、ただスナック菓子を食べる音だけが、異様に響いていた。
 だが、食べている本人はその音に気付かない。
 その原因は彼女の両耳へ伸びているイヤホンだった。
 イヤホンの大元はテーブルの上のパソコン。
 今は動画を見ているらしく、画面に表示されたシーンと連動した音声が、イヤホンから音漏れしている。
「ふはははははっ」
 不意に笑い声が上がる。
 顔は真っ赤になっており、酔いが回っている様が容易に見て取れる。
 笑い声は歯止めが効かなくなっているのか、部屋中へ響いていた。
 しかし、一人暮らしなのだろう、それを指摘して注意するような人も部屋には居ない。
 静かな部屋の中に響く女性の声。
 特別防音施工などしていない建物では、左右や上下の部屋から苦情がやってきそうなものだが、いつまでたってもインターホンはならない。
 彼女が女性だからなのか、周りが我慢強い人達ばかりなのか、それとも偶然にも周りが留守なのか。
 それを確かめるすべはないが、今の彼女にはそんな事を気に留めるような神経質さはない。
 ただ、好きな物を食べて、好きな動画を見て、好きなお酒を飲む。
 刹那的な幸せと言われれば、そうなのかもしれない。
 しかし、彼女はそれでも十分だった。
 世間のありとあらゆるしがらみに縛られて生活をしている中、唯一その呪縛から逃れられる瞬間。
 多少、タガは外れてしまっているが、この時間ばかりは世間一般を忘れても良いのではないだろうか。
 そう、無意識のうちに理由付けながら、彼女は酒の入ったグラスを煽る。
 コンビニで買った市販の安いカクテルだが、それでも中々美味しくて、飲む量がかさんでしまう。
 飲めば飲むほど、気分が明るくなって、嫌な事を忘れる事ができて、手が止まらない。
 笑い上戸と言われれば、違うとは言い切れないが、自覚はない。
 賑やかな笑い声が、パソコン画面の中の動画とリンクする。
 時計の針はもうすぐ0時を示そうかという頃合い。
 長い夜は、まだまだ続きそうだった。
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