IPPI STYLE
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短編 キックオフ
 青空の下で佇む芝生は、エメラルドグリーンに輝いていた。
 太陽の光を遮る雲も、今は空気を読んで姿を潜めているらしく、会場はますます熱気を帯びていく。
 長方形に切り取られた芝生のピッチを取り囲む観衆たちの声援は、ウォームアップを始めている選手たちのやる気をも盛り立てていた。
 ピッチ上で小さく動きまわる二色のユニフォーム。
 太陽と共に彼らを見下ろす時計は、開始時間まで秒読みを始めていた。
 そして、また新たな色のユニフォームを身に付けた存在――審判の入場により、いよいよ状況は動きだす。
 ウォームアップを止め、選手たちは動きを止め、ベンチにいる監督へ視線を送る。
 それを受けてか、両チームの監督は審判へと近づき二、三言葉を交わした。
 その後、監督は再び自陣のベンチへ戻っていく。
 ピッチへ視線を戻せば、選手たちは中央に描かれたサークルへと足を運び、整列を始めていた。
 審判の到着と共に、向かい合った二つのチームは互いに目を合わせる。
 ピリピリとした緊張感が見ているだけでも伝わってくるようだった。
 熱気に満ちた会場も、この瞬間ばかりは声援が小さくなり、静まり返る。
 瞬間、審判の合図で両チームは頭を下げ、気合いに満ちた掛け声を上げた。
 両チームのキャプテンを残し、蜘蛛の子を散らしたように残りのチームメイトは自陣へと散っていく。
 静まり返っていた観衆も、再び熱気を取り戻し、随所から学校名を叫ぶ声も聞こえてくる。
 キャプテン二人を前にした審判は、コインを手にその表裏を確認する。
 コイントスによる判別。
 その結果は一瞬で決まった。
 ボールの所有権が決まると同時に、外したキャプテンは素早く引き下がる。
 所有権を得たキャプテンは自陣からメンバーを1人呼んで中央に置かれたボールを足で押さえた。
 いよいよ、試合開始だ。
 会場の注目がそのボールへと向けられる。
 審判はアイコンタクトで副審と確認を取った後、口にくわえたホイッスルを大きく鳴らした。
 広い会場の隅々まで響きわたる、高く美しい音色。
 それを合図に、両者の運命を担うボールは転がり始めるのだった。
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短編 不変
 暦の上ではまだ春のはずなのに、窓から差し込んでくる陽射しは、容赦なく夏の陽気を演出している。
 ただでさえ暑さで集中力が途切れそうなのに、窓際の席ともなると悲惨だ。
 もっとも、授業中に居眠りする輩にとっては、逆に眠りの妨げとなって抑止力にはなっているだろうが、だからといってそれで真面目に勉強をするというわけでもない。
 当該の生徒にとって、この瞬間ほどカーテンの存在を欲することはないだろう。
 特にカーテン近くの生徒なら幾分自分の意思で日陰を作ったりもできるだろうが、窓の真ん中の位置にある席はただひたすらに前の席もしくは後ろの席の援護を待たなくてはならない。
 日の光が頭を照らす。
 黒い髪の毛は、熱を帯びて手で触れればすぐわかるほどに温まっていることがわかる。
 それだけならまだいい。
 学生服は冬季仕様で、厚手の生地――しかも色も真っ黒ないし濃紺だ。
 一昔前の応援団のような、根性論でがんばれと暗に行っているようにさえ思えてくる。
 そもそも、衣替えなどというイベントを月単位で行っていること自体がおかしいのではないだろうか。
 今朝の天気予報では気温は軽く二十度を超えるといっていた。
 それなのに何でこんな長袖の厚い制服でなくてはならないのだろうか。
 文句を言ったところで、それはルールだからと一蹴される。
 教師の方はちゃっかり夏使用の薄いスーツを着てきているというのに、理不尽だ。
 そのくせに、体調崩すと体調管理をどうたらなどと言い出す始末。
 行っている事とやっている事が噛み合っていない。
 根底に根性論が根付いている辺り、時代とのギャップだけがどんどん広がっていく。
 そこに生じた不信感や反発心が、授業への求心力を奪っていく。
 まるで、時代の変化に取り残されたように、何食わぬ顔で学校という存在はそこにあぐらをかいている。
 今まで体質を変える機会はいくらでもあっただろうに、それをことごとく後回しにしてきたツケをここで払う羽目になっている。
 教室の一番人気の位置。
 廊下側の一番後ろの席に目を向けると、無人の机が寂しそうに座っていた。
短編 夜のハイウェイ
 鮮やかな青空はいつしか濃紺に染まり、白く照り輝いていた大地は、本来の色合いを取り戻していた。
 荒野に伸びる一本のハイウェイは、より一層と閑散としていた。
 そのせいか、普段にも増して車のエンジン音が大きく響いて聞こえる。
 外灯などという洒落た物は無い。
 あるのは地平線まで伸びる太い太いアスファルトの道路だけだ。
 おかげで、数時間ほど走っても周囲の風景は変わり映えせず、何もしなければうとうとと眠りに落ちてしまいそうだった。
 それをかろうじて繋ぎとめていたのは、ラジオから流れてくる大音量の音楽だ。
 住宅街なら苦情も必至だろうが、家どころか人口の建物は何一つ見つからないこの地においては、むしろ重宝される心の拠り所になりつつある。
 日中でも車通りのないのだから、夜間ならなおさらだろう。
 車のヘッドライトは前方を照らしてはいるが、他の車の姿を捉えることはできていない。
 路面もきれいな舗装がされていないのか、はたまた長年放置して変形しているのか、路面の凹凸により生じる振動が車体を通じて直に伝わってくる。
 おかげでヘッドライトの明りも、ラジオの音楽に合わせてビートを刻んでいるかのように見えた。
 明るい音楽を耳にするのは特段困ることではないのだが、この凹凸の激しい道を走り続けるのは、さすがにお尻が痛くなるのであまり好ましくは無い。
 今更ながら、座席にクッションでも敷いておけばよかったと後悔すらしてしまう。
 だが、こんな辺鄙なところに都合よくホームセンターなんてあるわけもない。
 ハンドルを握る手に力を込めながらも、終わりの見えない道でひたすらに車を走らせていく。
 人工的な光など他に見られない荒野。
 少しばかり視線を上向ければ、そこには満天の星空が広がっている。
 だが、そんな自然の絶景に興味を抱けるほどの余裕は今はなかった。
 それだけ身体には疲労が溜まり、穏やかな心を蝕んでいた。
 車の中は怒りと音楽、そして暖房の熱気で満ちている一方で、外は澄んだ空が体現するように冷気で溢れていた。
 日が昇る頃には目的地に着く予定だ。
 黄金色に輝く朝日を眺める頃になって、ようやくこの苦行から解放される。
 その思いを頭の片隅に置きながら、更に深くアクセルを踏み込む。
短編 カラフルライフ
 清潔感を覚える真っ白い部屋は、情報に溢れた現代においては、いささか物足りなさを覚える。
 もちろん、自分で持って来た小物や日用品は別だが、それらの持つ強靭な色味でさえも、白い部屋は容易に呑み込んでいた。
 もしかしたら、自分自身も既にこの部屋によって白く染められているのかもしれない。
 そんな気さえしてくる程の白が周囲をとりまいていた。
 唯一の楽しみは、窓からのぞける外の景色くらいだろう。
 そこには青々と広がる自然が、大層色鮮やかに輝いていた。
 自分自身が、白色に目を慣らし過ぎたせいという可能性もないわけではないが、自然という色に救われていることは間違いない。
 自らの手の平をまじまじと見つめてみる。
 すっかり細く、そして青白くなってしまった手がそこにあった。
 赤々として、それでいて丸々とした肉付きの面影はもうどこにも見ることはできない。
 ダイエットをしている身なら、万一に喜ぶ人もいるかもしれないが、生憎そんな状態ではなかった。
 安い手羽先みたいな指――それが率直に抱いた感想だった。
 途端、強烈な無力感が全身を襲い、抗う気力すら脇起こらなかった自分の身体は、真っ白なベッドの上に身を横たえる。
 一面に広がるのは、多少灰色がかった天井だった。
 もっとも、それは光の加減でそう見えるだけで、元は白色であるのだろうが。
 何をするでもなく、ただ横たわり、目に映る光景を朦朧としながら眺め続ける。
 人間はそれぞれオーラというものを持っているらしいが、自分にそれをあてはめるなら、それは無色ではないだろうか。
 風前の灯。
 今にも消え入りそうな人間のオーラに色など付くはずがない。
 色づいていたとしても、色と認識できるような状態であるはずがないのだ。
 まるで人の生涯を思い返して見ているようだった。
 真っ暗闇から人は生まれ、そして明るく色鮮やかな世界を目にする。
 そこには美しい色や醜い色が混在していて、その中を必死で生き抜いていく。
 そして最後には、いつしか色を失い白く変わる。
 終わりを告げる瞬間はその白すら無に帰るのだ。
 そう、今の自分の様に。
 目を閉じると、そこには黒い世界が広がっていた。
 ――もしかしたら、黒は無に最も近い色なのかもしれない。
 それが、人生の最後に抱いた、思いだった。
短編 今日の社説
 蛍光灯の明りが見下ろす中、オフィスでは出入りする人々が忙しなく動き続けていた。
 窓の外はもうすっかり暗くなっているが、そこからのぞける夜景を楽しむといった余裕は僕らにはない。
 そんなことをしていたら、さっさと仕事をしろと編集長の怒号が脳天に降ってくるのは間違いないだろう。
 かといって、今更何をすればいいのかわからないのが、そもそもの問題なのだ。
 取材に行ってネタを持ち帰ってくる記者も、それはそれで大変だろうが、ある程度のテンプレートはあるので文書化はそれほどつらくはない。
 本当につらいのは、社説で取り扱うネタを自分で探し、自分で構成して、上司の許可をもらうという立場の人間なのではないだろうか。
 ……それは、つまり自分ということを遠回しに言っているわけだが、それにしてもネタが無い。
 先輩記者の話では、こういうのはネタをストックして小出しにするものだとのことだったが、ネタというのはナマモノだ。
 特に時事ネタは旬を過ぎると途端に使い物にならなくなる。
 だからストックする時は、汎用性のあるネタにしなくてはならないのだが、そういうネタに限って見つからないもの。
 使いやすい時事ネタを拾っていくと、どうしても今みたいな壁にぶち当たってしまう。
 パソコンのディスプレイの隅へ目を向ける。
 無情な時刻表示は、締め切りまでのカウントダウンを容赦なく進めていた。
 肩を落とし、溜息を漏らす。
 しかし、それで何かが生まれるわけでもない。
 会社という歯車が回り続けているせいで、そこに組み込まれた自分も動かざるを得ない。
 何とかしてネタを探さなくては――。
 画面上に開いたブラウザで旬のネタを探していく。
 マウスを動かして、スクロールさせていくが、中々書きやすいネタは見つからない。
 焦りは禁物だとわかってはいても、時間に追われている今、平静を取り戻すのは難しい。
 ここは、一旦仕事の事を忘れて頭をクリアした方がいいかもしれない。
 身体をそらせて天井を仰ぐと、今までの疲れが全身に広がっていくのを感じた。
 目元を押さえて、少しでも疲労を回復しようと試みるが、それも焼き石に水。
 やはりここは栄養ドリンクに頼らざるを得ない。
 机の引き出しを開けて、買い込んだドリンクの瓶を手に取り、蓋を空ける。
 口に含めば独特の薬っぽい味わいと濃厚な甘味が広がった。
 量もそれほど多くは無いので、一気に飲み干すことができた。
 だが、これでもうひと頑張りできる。
 そう自分に言い聞かせると、空になった瓶を机の上に置いて再びパソコンの画面と向き合った。
 今日の記事はまだ真っ白だが、何としても間に合わせなくてはならない。
 多少無理をしてでも、ネタを見つけて記事に仕上げよう。
 そう思いつつ、目を細めてブラウザ上に表示されるニュースを追うのだった。
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