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短編 世界の一部
 時代の移り変わりはめまぐるしく、四季の変化すら一瞬に思えてくる。
 桜が咲いたかと思えば、せみの鳴き声が青空に響き、木の葉が紅葉したかと思えば、雲の中から雪が降り立つ。
 あっという間に一年が過ぎる。
 あっという間に二年が過ぎる。
 数えるのも億劫になるようなくらい、何度も何度も同じときを繰り返す。
 春が来て、夏が来る。
 夏が来て、秋が来る。
 秋が来て、冬が来る。
 冬が来て、春が来る。
 生物が生まれ、盛り、そして消えていく。
 そんなときを繰り返しながら、自然の流れと一体化する。
 世界の動きに溶け込んでいく。
 そう、自分も世界の一部なのだ。
 何かを考えても、考えなくても、時間は進む。
 それもすべて、時の流れ。
 世界という手のひらの上で、最後までもてあそばれる。
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短編 待ち時間
 それは、役所で整理券を取り、順番待ちをしている時の事だった。
 賑やかではないが、かといって閑散としているわけでもない、ごくごく平凡な役所の雰囲気。
 カウンターから上がる呼び出しの番号は、自分の手の中にあるものより、大分若い。
 どんなに早くてもあと十数分はかかるだろう。
 その間、いかにして時間をつぶせばいいか、それが気がかりだ。
 外へ出るのも選択肢としてないわけではないが、遅くなれば飛ばされて、結局後回しになってしまう。
 かといってこのまま待合スペースのイスに座って待っているのも落ち着かない。
 もどかしい感覚に、自然と身体が震え始める。
 俗に言う貧乏ゆすりというやつだ。
 あまり褒められた行為ではないが、半分無意識なので自覚は無い。
 数秒経過してからハッと気付き慌てて立ち上がる。
 普段から仕事をてきぱきとこなしている性分のせいだろうか、じっとしているのがこの上なく苦痛に感じた。
 立ちっぱなしというのも、誰が見ているわけでもないが気恥かしく、その場をとりあえず離れる。
 長く続くカウンターを横目に歩くと、様々な課の名前が流れていく。
 改めて思うが、縦割りの区分が細かすぎるのではないだろうか。
 しかし、そんなことを口にしても、そういうルールだからと返されるのがオチだ。
 時計の針の動きが異様に遅く感じる。
 思考ばかりが何度も何度もぐるぐると巡り、余計に苛立ちを加速させていく。
 そんな中、ふと目に付いたのはロビーの隅に設置してあった自動販売機だった。
 まるで光に吸い寄せられる夏の虫のように、ほぼ一直線に自販機へと向かう。
 とりあえず、何か口にして時間を潰したい、その思いからだった。
 並んでいるのはごくごく平凡なラインナップ。
 炭酸飲料やお茶、水のペットボトルや缶などで、別段変わったものはない。
 さすがにお茶はトイレが近くなるといけないので、普通の清涼飲料水にする。
 普段はあまり飲まないのだが、ただの水にお金を払ったりするには少しばかり抵抗があった。
 コーヒーの類があれば幾らか選択肢は広がるのだが、生憎ここのメーカでは置いていないらしい。
 コインを投入し、ボタンを押す。
 ガコンという音と共に取り出し口に缶が落ちてくる。
 取り出すと、手の平に冷たい感触が伝わってくる。
 じっくり冷やされていたのだろうか、ずっと持っているとこちらの指が凍ってしまいそうだった。
 缶を持ち直し、その場でタブを起こす。
 中に充填されたガスが抜ける音を耳にしながら、口に含む。
 思った以上に喉が渇いていたらしく、気付けば喉を鳴らして缶を煽っていた。
 そして一息吐くと、少しではあるが気分が落ち着いてくる。
 糖分が足りていなかったせいかもしれないなどと思いながら、時計へと目をやる。
 時間はまだ残っているが、手にしたこれを飲み干す頃にはちょうどよく自分の番になるだろう。
 缶の中には冷たい飲料。
 逆の手に持ち替えて、もう一杯口の中に飲料を注ぎ込んだ。
短編 ルーティン
 時間は午後の二時。
 仕事の昼休憩とティータイムとの間という事もあって店の中は幾分穏やかでホッと一息吐くにはちょうど良い雰囲気だった。
 店内に流れる音楽は、一時代前のポップミュージックのアレンジ曲。
 ボーカルはなく、柔らかな曲調に編曲された音楽は、自分の好みとマッチして、より過ごしやすい環境を与えてくれている。
 テーブルの上には紅茶のティーカップ。
 湯気の量も大分減りはしたが、それでもまだ香りを楽しむには十分な熱は残っている。
 日差しが差し込んでくる窓の向こうへと、ふと視線を向ける。
 道行く人の量も格段に減り、歩いている人も皆が忙しそうな表情を浮かべているのがわかる。
 皆が忙しそうに働いている中、自分がこの優雅な時間を独占しているのだと思うと、優越感を覚える事ができるから好きだ。
 自分だけが特別な存在の様な、そんな世界。
 そこにどっぷりと浸かりながら、物想いに耽る。
 一緒に話が出来るような相手がいれば、それはそれで楽しいのかもしれないが、話しベタな自分にとってはあまり意味がある事ではない。
 ただ一方的に聞き役に徹するのは嫌いではないのだが、一人で居たい時もある。
 そして、今がその時だったり――。
 若干温くなった紅茶を口に含む。
 熱々の時とはまた違った口当たりに、思わず口が緩む。
 熱すぎず、ぬる過ぎず、そんな香りが口の中に広がり、鼻へと抜けていく。
 ホッと吐く息さえも紅茶の香りで彩られる。
 まるで、自分の身体が紅茶でできているかのような、そんな気分だった。
 店内の雰囲気も、どことなく洋風なデザインを思わせる。
 客層や店員は自分と同じような和風の顔立ちの人々ばかりだが、それでも、この場所が気に入っていた。
 毎日を決まったルーティンで繰り返す自分。
 もうすぐいつもの女性陣がやってきて、やかましい雑談に興じ始める頃だろう。
 時計ではなく、紅茶の残りの量を見て、そう思う。
 いつも通り、残りの分を一気に煽り、席を立つ。
 そうすれば、彼女たちといつもの通りすれ違う事になる。
 忘れ物がないかだけ確認をとって、立ち上がり、そのままレジへと向かった。
 瞬間、誰かが店内に入ってくる音が聞こえた。
 騒がしい話し声。
 ずっと道端で話をしながら歩いていたのだろうと簡単に予想が付いた。
 レジで支払いを済ます。
 そして、入れ違うように外へ――。
 いつもの日常。
 その続きを行うために、一拍だけ置いて、仕事場への道を歩き始める。
短編 雨の気配
 ふと足を止めたのは、空気の質が変わるのを感じ取ったからだった。
 日も出ていて、確かに温かさは感じるのだが、吹き込んでくる風は冷たく、数分前とはまるで別世界に来たかのようだ。
 空を見上げれば、大半は薄暗い雲で覆われていて、大変に機嫌が悪そうだった。
 しかしながら、青空ものぞけているので、それ程暗さを感じたり、不気味さを覚える事はない。
 ただ、どことなく雨の雰囲気を感じるのは、自分がまだこの都会に溶け込めていないからなのだろうかと、ふと思ってしまう。
 雨の気配を感じつつも、出かける時はそんな事は考えもしなかったので、生憎雨具は手元にはない。
 なるべく早く、この場所を離れた方が良さそうだとは思うのだが、家へ戻るにも中途半端であるし、目的があって外へ出て来たわけでもないので、これからどうするべきか、少しばかり考えてしまう。
 コンビニにでも寄ろうかと考えたりもしたが、時間をつぶすには、いささか規模が小さすぎる気もする。
 それに、空気の流れや天気予報からいって、雨が降ったとしても一時的なものだ。
 わざわざ傘を買ってもお金がもったいない。
 どこか、百貨店か専門店で数時間見て回った方が余程有益だろう。
 そんなことを考えながら、足を動かす。
 記憶をたどってこの近くにそういう店舗がないか探し始める。
 しかし、そういう時に限って欲しい物が見つからなかったりするものだ。
 今回も例にもれず、周囲にはそれらしき店は無い。
 住宅街とオフィス街の境界のような場所では、さすがに無理があるというものか。
 とりあえず、移動はした方が良いだろう。
 もう少し歩けば人通りも多くなる。
 大きな通りに出れば、それらしき店も幾らか開いている事だろう。
 半分楽観的になりながら、人や車の気配を探して歩き続ける。
 道行く人にぶつからないよう、最低限の注意だけは怠らないようにして、気ままに歩く。
 雨の気配から逃れるように。
 冷たい空気から離れるように。
 まるで、それは小動物の様に。
 自分にとって過ごしやすい場所、心地よい場所を目指して、絶えず動き続ける。
短編 朝の始まり
 玄関の扉を開けると、清々しい朝の陽射しに思わず目を細めてしまう。
 恐らく、目覚めてから一時間も経っていないのが原因だろうが、今更になってそれを悔いても仕方がない。
 ふとこみ上げてきたあくびをこらえると、目の端から涙が溢れて来る。
 それを指先で拭うと、外へ足を踏み出した。
 日の光が当たっている箇所が温かく感じ、心地よい。
 扉を閉めて、鍵をかける。
 ただそれだけなのに、不思議と目が冴えてくる。
 もしかしたら、自然と気持ちが仕事用に切り替わっているのかもしれない。
 最後にもう一度、忘れ物がないか確認をする。
 ポケットの中、鞄の中を軽く見て、大丈夫だとわかると、ようやく足を動かし始めた。
 靴の音が軽やかに響く。
 街の雑踏をBGMに、足取りが軽くなる。
 気持ちと一緒に視線も上向く。
 世界が輝いて見える。
 実際、青々とした空からはまばゆい光が差し込み、この街を照らし出していた。
 目指すのはバス停。
 いつもの通勤経路。
 いつもの通勤時間。
 いつもの面子がそこにはあった。
 バスを待つ人の列に、いつしか安心感を覚えている。
 そんな自分に気付く。
 列の最後尾につき、時間を確認する。
 普段よりも少しばかり早いが、待つ時間はさほど変わりはしないだろう。
 道路の交通量は、早朝というのに多く、エンジン音が何重にもなって聞こえてくる。
 騒音といえば騒音だが、今ではもう慣れた。
 もう、日常の一部となっていた。
 逆にこれから静かになろうものなら、それこそ何かあったのだろうかと不安を覚えてしまうことだろう。
 各々が自分なりの方法で時間を潰している。
 その多くがスマートフォンを操作したり、音楽を聞いたりしている。
 何もせず、ただ待っている自分は数少ない例外といえるだろう。
 もうじきバスがやってくる。
 車道へ視線を向け、バスの姿を探す。
 普通乗用車やタクシーが続く中、大型の車両を目で探すこと数分。
 遠方の十字路に小さくバスの姿を確認することができた。
 予定よりも若干遅い運行。
 しかし、通勤には支障がない程度の誤差ではある。
 最後、定期の場所を確認してバスの到着を待つ。
 今、何か願いがかなうと言われたなら、バスの席が空いている事くらいだろう。
 そんな事を考えながら、今日という日が始まっていく。
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