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短編 ハロウィーン
 日が暮れてくると、街並みもその表情を変え、昼間とはまた違った雰囲気が漂ってくる。
 楽しげでどこかポップな空気が、楽しさを残しつつもどこかおどろおどろしさを醸し出す、そんな空間。
 灯りも決して明るいばかりのものではなく、ろうそくや間接照明のような薄ぼんやりとしたものが多くなり、よりその雰囲気を演出している。
 そう、今日はハロウィン。
 秋季の豊穣と死者を尊ぶ祭典。
 子供たちは仮装して町を練り歩き、大人たちはそんな愛らしい怪物たちに甘いお菓子を配っていく。
 トリックオアトリートの合言葉があちこちから聞こえてくる様は平和そのものだった。
 だが、そんなイベントの中、微細ながらも異変に気付く人がいた。
 毎年恒例のイベント。
 彼女はいつものようにバスケットいっぱいの焼き菓子を用意して待っていた。
 そして玄関のベルが鳴る。
「Trick or Treat?」
 ウィッチやらヴァンパイアやら、ゴーストやら。
 さまざまな仮装をしたグループが玄関の扉を開けると、そこには立っていた。
「はい、これをどうぞ」
 そう言って子供たちにお菓子を配り始める。
 皆仮装をしているが、見覚えのある近所の子供たちだ。
 ただ、その愛らしい少年少女のグループの中に、見知らぬ顔があることに気づく。
 しかし、それが誰なのかはわからなかった。
 新しく越してきた子供なのか、誰かの友達なのかもしれない。
 無論、地域の子供たち全員を把握しているわけではないのでさして気にも留めず、お菓子を配る。
 粗方配り終えると、子供たちはキャッキャッと興奮した様子で家を離れていった。
 そんな彼らの背中を見送ると、女性は扉を閉める。
 とりあえず、自分の仕事はこれで完了だ。
 その安心感から急に体に疲れを感じ、ソファに腰を下ろした。
 そんな中、不思議と頭に浮かんだのは見知らぬ子供のことだった。
 どうして気になったのかは自分にもわからない。
 特に仮装らしい仮装をしていなかったせいもあるのかもしれない。
 でも、ゾンビのようなコスプレをしている子供も結構いるのでその点ではあまり違和感はなかったはずだ。
「まあ、気のせいでしょう」
 バスケットの中に残った焼き菓子を手に取りつつ、テレビに意識を向ける。
 気になったら後で子供たちに聞けばいい。
 そんな安易な気持ちだった。
 だが、後日知り合いの女の子に聞いてみたら、そんなこはいなかったという。
 でも確かにバスケットの中にあった焼き菓子は個数分無くなっている。
 もちろん、自分が口にした数も合わせてだ。
「もしかして、本物が? ……まさか」
 半信半疑な笑いを浮かべつつ、女性は女の子と別れ、一人悶々とした時間を過ごすのだった。
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短編 私たちの恋愛事情
「えぇっ、また別れたの?」
「ちょっと、声がデカイって!」
「あっ……ごめん」
 友人のアミにたしなめられ、周囲の様子を確認する。
 幸いにも、周りにこちらを見ているような人の姿はない。
 別に見てたからと言って、私たちを知っている人にでもない限りは問題なんてないのだけど。
「だけどさ、先週付き合い始めたばかりでしょ? いくらなんでも早すぎない?」
 驚きを隠せない私に、アミは注文したドリンクに口をつけながら笑う。
「いや、だってあいつ、私と付き合っていながら別のオンナと会ってたんだよ? 当然別れるっしょ」
 言われてみると、理由は確かに納得がいく。
「あぁ、それじゃあ仕方ないわ」
「でしょ? 二、三年付き合ってるならまだしも、一週間だよ。もう振ってやって当然って話よ」
「やっぱ顔がいいとモテるのかな」
 適当に相槌を打ちつつ、私もドリンクを口に含む。
 甘味と酸味が絶妙に混ざり合った、フルーティな味わいが口の中に広がる。
 前々から頼んでみたいと思ってたけど、これは注文して正解だった。
 また機会があったら頼んでみよう。
 すると、そこへアミの方から話題を吹っかけてくる。
「それで、そっちはどうなのよ?」
「私?」
 どうというのは、考えるでもなく恋愛事情についてだろう。
「そうそう、順調なわけ?」
 半分溜息の混じったような問いかけに、私は少しの間を置く。
 特に問題があるわけでもないけど、そのまま言うと嫌味に聞こえるだろうし、言葉を選ぶ必要があるからだ。
「あぁ、こっちは浮気とかはないんだけどね。ただ、特別何もないっていうか、なさすぎっていうか」
「それ、マンネリ化ってやつ?」
「そんなところ」
 マンネリ化してるかはわからないけど、嘘は言っていない。
「そっか。でも、別れたりしないならそれがいいよね」
「そうかな?」
「そうだよ。うちみたいな長続きしない人間からしたら、うらやましい悩み」
「大丈夫だって。アミもすぐに彼氏できるって」
「はは、そう言ってくれると助かる」
 どこまでが本気で、どこまでが建前かわからない会話の往来。
 それらを駆使してコミュニケーションを図っていく。
 自然と声が大きくなっていくのは、同調ができている証拠。
 これが私たちなりのやり方なのだ。
短編 独りは罪
 人間という生き物は社会を構成し、そこに服すことで生活をする。
 それ故に、そこに適応できない者は、容赦なく除外される。
 建前上は、弱者を助けるのが美徳と言われているが、実際問題としてそんな酔狂な輩は一握りいれば奇跡といえるくらいの世知辛い割合だ。
 自由だとか権利だとか謳っている団体も政治家も、その実態は自分たちの利権の為に建前を述べているだけに過ぎない。
 更に、人間社会のおかしな点を付け加えるとすれば、建前だとわかっているのに、それを正義として同調せねばならないという所である。
 実態との乖離が甚だしいにも関わらず、夢物語を、理想論を正義と掲げる。
 そうしなければ、社会から締め出され、命を絶つよりほかないからである。
 この点、人間は他の動植物より格段に劣っている。
 自分たちが生活する環境を作っておきながら、そこで自由という名の制約に満ちた生き方しか許さない社会。
 ルールを守らないから、自分が気に入らないから、それだけの理由で容易に他人を傷つける。
 自分の為に相手を傷つけるのは仕方のないことなのだ。
 しかし、それは容易くも建前で守られている。
 本音を言ってはいけない。
 それは暗黙のルールなのだ。
 そのルールを守れない者は、容赦なく省かれる。
 数とは力である。
 一人が破れば、その他大勢が糾弾を始める。
 まるで石を投げるように。
 みぞおちに蹴りを入れるように。
 頭を蹴りあげるように。
 断罪をする聖者にでもなったかのような、傲慢さを掲げて容赦なくなぶり者にするのだ。
 自由主義国家は素晴らしい。
 多数派にさえなりさえすれば、何をしても許されるのだ。
 そこに法の介入する隙などない。
 何故なら、法もまたこの国民たちの下にあるのだから。
短編 異形と戦う少女
 突然走り出した彼女の後を追ってきたはいいが、倉庫の中に入ったところで見失ってしまった。
「おかしいな……確かに入ったのは見たはずなのに」
 倉庫内は薄暗かったが、それでも人影を探すくらいは十分な照度は保たれている。
 それこそ、夜間にひっそりと息を沈めていない限りは容易に見つけられるはずだった。
 しかし、現に倉庫の中には人影はない。
 居るはずの人がいない――その事実が頭を混乱に導き、僕はその場に棒立ちになっていた。
 そんな中、僕の意識は突然倉庫内に響き渡った破裂音によって一気に引き寄せられる。
 倉庫内で何かが動いているわけでもない。
 にも関わらず、二度、三度と破裂音ばかりが倉庫の中に反響し、その振動が体を震わせてくる。
「いったい、何が起こってるんだ?」
 思わず口をついて出た疑問に答えてくれる声はない。
 だが、目の前から伝わってくる張り詰めた空気は、ここで何かが行われていることを間接的に教えてくれている。
 このまま前へと進むべきか、逃げるべきか。
 身の安全を考えるなら、ここで引いた方が良いのは明だ。
 でも、それ以上に彼女が一体どうなっているのか、それに対する興味が自身を前へと突き動かす。
 そして、僕が一歩足を踏み出してしまった瞬間。
 今まで断続的に聞こえていた破裂音とは別の、破壊音のような音が上がる。
 よく見てみると、先ほどまで何の変哲もなかった倉庫の壁が大きくえぐれ、その下に壁に寄りかかる様な体勢の彼女の姿を確認できた。
 ただ休んでいるだけだとは、到底言い難い状況。
 もしかして、自分が来てしまったから、こんなことになったのだろうか。
 疑念と後悔、罪悪感が入り混じり、自身の動きをその場に固定しようとする。
 このままじゃいけない。
 今は彼女の無事を確認しなくては。
 怯えかけている心を奮い立たせるが、その瞬間目の前に飛び込んできた黒い影が視界を塞ぐ。
「――えっ?」
 それが何か確認しようと視線を上向ける。
 だが、宵闇よりも暗いその体の持ち主が何者なのか、確認することはできても、理解することはできなかった。
 強いて言えば、大型のクマのようなサイズで、人型をしていたということくらいしかわからなかった。
 しかも、それが自分の命を狙っているのだということも、わかりたくはないが、理解してしまった。
 声も出なかった。
 人間、本当に恐怖したときは声が出ないというのは本当らしい。
 身体に力が入らず、その場に尻もちをついてしまう。
 これではまともに逃げることもできない。
 それでも何とか離れようと体が動くが、せいぜい後ずさりするくらいしかできなかった。
 向けられる敵意――いや、捕食者の眼差しとでもいうのだろうか、どちらにしろこちらの命を狙うという意味では同義だ。
 相手はこちらの思いなど知らぬという様子で大きく振りかぶる。
 もう、諦めるしかない。
 気が付けば、本能的に目をつむって短い人生を振り返っていた。
「…………」
 しかし、衝撃もなければ、傷を受けた痛みもない。
 どうしたのだろうと、恐る恐る目を開けると、そこには数十秒前とは何ら変わらない倉庫の様子が広がっているだけだった。
 ただ違うのは、そこに少女がふらつきを堪えつつ立っている様がうかがえたことくらいだ。
「……助かった?」
 ただの白昼夢だという可能性も考えられたが、あの瞬間の恐怖は夢などという言葉では片づけられない。
 きっと、現実味は薄いが、彼女が、助けてくれたのだろう。
 そう考えれば筋は通る。
 だが、今は命が救われたという安心感で体から力が抜けていくばかり。
「ちょっと……大丈夫?」
 大丈夫だと答えたかったが、そんな余力はもうなかった。
 最後の力を振り絞り、首を縦に振るにとどまり、そのまま強烈な睡魔に誘われつつ意識を深淵へと呼び戻していく。
 命の恩人である彼女の声が遠くに聞こえたが、何と言っているかは理解できなかった。
 せっかく生き残れたのだ。
 また目が覚めた時に、彼女にもう一度聞こう。
 徐々に暗くなっていく意識。
 それは決して冷たくはなく、どこか暖かだった。
短編 二兎を追う者
 青空の下、太陽の朗らかな日差しを浴びていると、どうにも眠くなって敵わない。
 耳に入ってくる音が、穏やかな潮騒程度しかないのも要因だろう。
 だが、そんな中、まったりとした時間を過ごすのも良いものだ。
 手にした釣竿はいまだに頭を垂れたまま、ぴくりとも動かない。
 身体を動かすこともなく、ただ潮風にされされ、通常であれば身を震わせているところだが、今はこの晴天のおかげでそんな心配も不要だった。
 代わり映えしない空気。
 だが、時間だけは刻々と過ぎ去っていく。
 タイムイズマネーという言葉があるが、これもある意味贅沢な時間の使い方だ。
 不意に強風が吹き、思わず目を細める。
 何とか身体ごと海へと持っていかれることはなかったが、代わりに魚を入れるために持ってきたバケツがコロコロと岸壁の上を転がっていった。
 脇に置いていたはずのバケツは中がすっかり乾いている。
 重しとなる水すら入っていなかったのも要因だろう。
 こちらの意図などまるで考えることなく、釣り場からどんどん離れていく。
「あっ、待て――」
 反射的に立ち上がり、バケツを追いかける。
 いっそのこと、海にでも落ちていたら諦めのひとつもついただろうが、それすらもこれから起こる悲劇への序章に過ぎなかった。
「危ない危ない」
 なんとか転がるバケツを止めることに成功し、安堵の表情を浮かべる。
 だが、その直後に水音が聞こえる。
「――んっ?」
 顔だけを音のした方に向ける。
 その方向は先ほどまで自身が釣りをしていた箇所だ。
 そして、そこにはあるはずのものがなかった。
「やばっ、釣竿!」
 バケツを放り、急いで戻る。
 だが、何度見まわしても岸壁の上に釣竿はない。
 恐る恐る海面を見てみると、そこには見覚えのある浮きとそこから伸びる細長い竿。
「マジかよ……」
 岸壁と海面の間には1メートルほどの高さがあった。
 取りに海に飛び込んだとしても、這い上がるのはほぼ不可能だ。
 その事実に脱力し、膝から崩れ落ちる。
「せめて、水でも入れてあったらな……」
 そんな言葉をあざ笑うかのように、岸壁の端ではからのバケツが転がり、海へと飛び込んでいった。
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