IPPI STYLE
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短編 芸術と個性
 地方の美術館というものは、それが必然とでも言うかのように閑散としているものなのだろうか。
 一旦歩みを止めて、壁に掛けられた絵画を眺める。
 元々人口が少ないという事もあるのだろうが、それ以上に一般の人々が美術というものに興味が薄いというのが大きな理由であろうと思われる。
 付け加えるなら、美術に限らず芸術と呼ばれるものに対して自分自身で勝手にハードルを設け、敬遠しているというのも理由として挙げられるだろう。
 また、極端な意見としては、自身の価値観というものが認められづらい社会が形成されているのも原因ではないだろうか。
 どこかの誰かが設けた、流行という波。
 それに乗ることが正義だと信じて疑わず、プロモータの手の上で踊り続ける人々。
 そこにアレンジというオリジナリティこそかろうじて示しだすものの、引いてみれば皆同じ。
 まるで擬態をしている小生物かのように、周囲に同化しているのは、やはり自分の身を誰かから守る為なのだろうか。
 それとも、自分が部外者だとわかると何か不都合があったりするせいなのだろうか。
 そんな単色社会の中で誰かが全く違う色を見せた場合、その人間が引き抜かれるのは明らかだ。
 全部同じなら選ぶ必要などない。
 そこにしかない何かがあるから人はそれを選ぶ。
 美術館も同じだ。
 ここにしかない絵がある。
 ここでしか見られない彫刻がある。
 他にはない空気がある。
 人々が内に秘めた個性を力の限りぶつけた作品はどれも、流行すら分断するくらいのエネルギーが宿っている。
 しかし、残念ながら自分には、それらをすべて受け止めるだけの器はない。
 世の中とは非常なものだ。
 どんなに個性が光っていたとしても、受け入れる側がキャパシティを有していなければ、無いに等しい扱いを受けてしまう。
 長い時間を経て、輝きが濁ることもあるだろう。
 だが、休むことなく磨き続け、当時の輝きを保ち続ける者がいたなら、二度目のチャンスはあるかもしれない。
 独特な個性。
 変わる時代によって生み出される、変わらない個性。
 今は前者が選ばれるだろう。
 これだけの多彩な才能が宿る時代なのだ。
 最後に笑えるのは、輝き続ける逸材――それに尽きるだろう。
 額縁の中で笑っている子供の笑顔は、どこまでも眩しかった。
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短編 酔狂な知人
「奇妙な夢?」
 そういうと、彼は片眉を吊り上げながら、カップに向けていた視線をこちらへと移した。
 彼の手元には白い湯気を上げたコーヒーカップが2つ、ソーサーの上で行儀よく鎮座している。
 来客の時はいつもこうだ。
 彼のオリジナルのブレンドで抽出したコーヒーを、真っ白なコーヒーカップに乗せて提供する。
 そんなことを知っている自分は、もはや常連になりつつあるともいえるが、そんなことよりも今は彼の質問に答えるのが先決だろう。
 内容はもちろん、自分が昨晩にみた奇妙な夢に関してだ。
「あぁ、どうにも奇妙でね」
「奇妙っていっても、夢ってのは大抵奇妙なものだろう」
 彼は口元で笑いながらコーヒーを手にこちらへと歩いてくる。
 もちろん、夢というのは現実的な内容ばかりではなく、何の脈絡もない展開の連続であったり、奇妙であることも多々あるものだというのは自分も存じている。
 だが、今回の夢はどこかが違うのだ。
「――それは、そうなのだけど……普段の夢とは何かが違うんだよ」
「違うって、何が違うんだい? いいだろう、話してみるといい」
 目の前のテーブルにコーヒーを置くと、彼はテーブルの対面へと腰掛けた。
 革張りの黒いソファ。
 それが彼の特等席であり、人の相談を受けるときはいつもその位置だ。
 かくいうこちら側も決してものが悪いというわけではなく、割と年季の入った革張りのソファ――色は若干褪せた茶色になってはいるが、それもいい味になっている。
 ……おっと、今は彼にどこが奇妙なのかを説明するのだった。
「普通、夢ってのは夢だって気づくものだろう?」
「……は?」
「――えっ?」
 普段から温厚な彼が顔をしかめる。
 そこで自分の説明が不足していたことに気づき、慌てて言葉を付け加えた。
「いや、だから普通は目が覚めて、さっきまでの出来事が夢だったって気づくだろ」
 そこまで言ったところで彼はこちらの言いたい事を察したのか言葉を挟む。
「そういう事か。つまり、夢に見た内容は覚えているのだが、夢という自覚がまったくない――と」
「あぁ、理解が早くて助かる」
「ふっ、だてに付き合いが長いわけじゃないさ」
 こちらの言い分を共有できたところで互いに安堵が生まれる。
 ここでコーヒーに口をつけるのがこちらでの習慣になっている。
「……あぁ、この味は相変わらずだ」
「まぁ、新しいブレンドにも挑戦はしているのだが、この味を超えるモノになかなか出会えなくてね」
 鼻に抜けるコーヒーの香りと口の中に広がる苦味。
 後からやってくるほのかな酸味とすっきりとした後味。
 しかも、話しながら嗜むのにも邪魔にならないときている。
 もう彼は喫茶店でも開いたらいいのではないだろうか。
 以前にそんなことを冗談で言ったら、これは喫茶店で出すようなコーヒーじゃないよと一蹴されたのを覚えている。
 束の間の閑話。
 そこへ再び切り込んでいったのは彼の方だった。
「それで、その夢の内容というのはどんなものなんだい?」
 それを尋ねる彼の目つきは、とても楽しそうで、きらきらと子供のように輝いていた。
短編 春が見つけた冬
 浜辺に残った足跡はどこか寂しげで、祭りの後のような静けさが胸に染み入ってくる。
 波打ち際の足跡は既に消えていて、陸地に近い側の砂もいずれ吹き抜ける海風によって隠されてしまうだろう。
 決して人が多いわけではない、春先の海。
 気温もそれほど高いわけではないのに加え、風も冷たさを含んでいて、じっとしていたらくしゃみの一つでもしてしまいそうだ。
 それでも日の当たる場所はじんわりと温かで、それなりの厚着さえしていれば、ぼんやりと水平線を眺めるには適した気候と言えるだろう。
 海の色が濃紺に見えるのは、ここが北の海だからだろうか。
 生まれてこの方、テレビやネットで目にするようなライトブルーの海になど遭遇したためしがない。
 それとも海自体が工場の廃液などで汚れてしまっているせいなのだろうか。
 知識自体がそれほど深くないせいもあり、疑問は浮かぶが腑に落ちた答えは一向に出てはこない。
 一見穏やかに見える海原。
 その上では大小さまざまな雲が忙しなく動き続けている。
 それは、まるでアニメ映画の遠景のようだ、なんてことを思いながら目を細めた。
「――あっ」
 不意に視界を横切っていった花弁に注意を奪われる。
 決してそんなに大きくはなく、せいぜい小指の先程度のものだ。
 限りなく白に近い薄紅色。
 それが弄ばれるように乱暴に目の前で宙返りをする。
 一体どこから来たものなのだろうと気になり、視線を動かす。
 そして自分の背後に立っていた一本の木へとたどり着いた。
 ここへ来た当初は意識していなかったが、あと数日もすればあちこちが華やかに彩られるであろう梅の並木。
 きっと一時的に強く吹いた風によって可哀想にも飛ばされてしまったのだろう。
 梅の細い枝先は絶えず揺れ続け、今でも風の強さを表している。
 梅の花も、温かな日差しも、春を象徴する光景であるはずなのに、この海を前にすると、不思議とより強く冬を感じられた。
 ――今晩は熱燗にするか。
 そんなことを思いながら、冷え始めた身体を震わせた。
短編 ロスタイム
「はぁ~っ、幸せだわぁ~」
 コタツに半身を預けているだけだというのに、こうも幸福感を感じられるのは、やはり日本人ならではなのだろうか。
 いや、たとえ外国人であってもこの幸福感には抗えないだろう。
 暖気を感じない上半身も、ハンテンで防護しているのでさほど寒くはない。
 そもそも室内はエアコンで温度調整してあるので、そんなに寒くはない。
 若干設定温度を下げてはいるが、それがむしろ過ごしやすいくらいのちょうどよさになっている。
 そこに座椅子も加われば、もう堕落を妨げる要素など皆無だ。
 唯一の天敵は空気を読まずにやってくる集金や宅配の業者だ。
 ……複数ある時点で唯一ではないかもしれない。
 でも、とにかく今の自分を邪魔する者はほとんどない……はずだ。
 コタツというのは便利なもので、必要なものを台の上に置いておくことも可能なのだ。
 冬場はコタツでみかんなどとよく言われるが、近くにごみ箱でも置いてあれば、食べた後のみかんの皮をそのまま放れるのである意味無限機関と化す。
 なにもしないで、ただひたすら甘いみかんを味わい続けることの至高さといったら、もう考えるのも無意味に思えてくる。
 休日は有意義に使えとか言い出す輩がいるが、効率ばかり求めていたら、それこそ人生はつまらなくなる。
 人間にとって、無駄なことほど楽しいことはない。
 だから人間は無駄な事だとわかっていても、そこにのめりこんだり、時間を費やしたりするのだ。
 最悪、存在意義を考えれば、仕事をして結婚して子供を育てて、成人したらもう完全に用無しだろう。
 効率で考えれば、人間はその程度の存在だ。
 80や90まで生きる必要性など感じられなくなる。
 無駄なことをして。
 無駄に長生きして。
 無駄の為に馬鹿をする。
 それだけの余裕があるくらいの方が、人生ってきっと楽しい。
 部屋の中でコタツでぬくぬくと過ごしながら言っても説得力は皆無だと思うけど……でも、今のこのムダな時間は、幸福感でできている。
 それは断言できた。
短編 氷点下を感じて
 零下にまで落ちた気温は、露出した肌から容赦なく体温を奪っていく。
 この快晴の空でこんなにも寒いのなら、これが雨や雪の日だったらと思うと、想像しただけで震えてしまいそうだ。
 冷え切った体表は、まるで氷で覆われた大地のようだ。
 唯一の暖は、口から出る吐息。
 蒲公英の綿毛のように広がっては消えていく様は、一瞬ではあるが心に安らぎを与えてくれる。
 きっと自然の神秘のひとつだろう。
 吐息の中に閉じ込められた水分が、一気に冷やされて氷の粒に姿を変える。
 それらが陽の光に照らされて、キラキラと輝くのだ。
 油断をしていると唇さえもくっついてしまいそうになるが、そんなことを気に掛けることも忘れてしまいそうなほど、非現実的な美しさがそこにはあった。
 まるで自分自身が小さな芸術家にでもなったような気分だった。
 しかし、芸術家の寿命は短い。
 そして人間は弱く、脆い存在だ。
 身体がもう限界だと告げてくる。
 他の哺乳類であれば、自分の身を守ってくれる厚い冬毛があるのだろうが、人間は例外だ。
 薄い体毛はもはや体温保持の役目など有してはいない。
 早く温かいものをと身体が求めてくる。
 温かいココアでも飲んで、この光景を眺めたい。
 そんな欲求が湧き出てくる。
 しかし、そんな淡い思いも、吹き付ける冷風によってかき消される。
 現実に戻ってきた意識に突き動かされ、身体は温かい場所を求めて動き始める。
 関節が凍結してしまったかのように動かない。
 こんな短時間で動かなくなるなんて、自分の予想以上にこの場所は温度が低いらしい。
 体感温度というのもある意味一種の才能といえるかもしれない。
 固まった関節をほぐすように、やや大げさに動かしながら歩く。
 頬が冷たい。
 でもきっと顔は真っ赤になっていることだろう。
 しかし感覚がマヒしかけているので、実際にどうなっているのかはわからない。
 今の一番の不安は、垂れた鼻水が凍ってしまっていないかという、至ってくだらない事だった。
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