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短編 爆弾と教授
「早く逃げましょう、もう時間が――」
 そう叫ぶのは他でもない、私の助手だ。
 普段は私に対して大声で何かをうったえてくるような人物ではないのだが、生命の危機を感じているこの現状では取り繕っている場合ではないのだろう。
 それも当然のことかもしれない。
 時限式の爆弾を目の前にして冷静にしていられる人間など限られている。
 しかし、だからといって本物の爆弾を目の前にするという機会も一生のうちに一回あるかどうかだ。
 この機会を逃すのは、もったいない。
 そう私の中の学者魂がうったえるのだ。
「君は逃げなさい。私はこの爆弾を調べる」
「何言ってるんですが。それは警察に任せることでしょう」
 普通であれば警察に通報して逃げるのが筋だろう。
 爆弾処理のプロフェッショナルに任せた方が何倍も安全だ。
 だが、それでは遅いのだ。
 見たところ、かなり特殊な仕組みの時限装置を用いているらしい。
 爆発して消え去ってしまってからでは、確認などすることができるわけがない。
 だからこそ、今、こうして解き明かすしかないのだ。
「大丈夫です。時限爆弾の仕組みを理解さえすれば、さほど難しいことではありません」
「だから、そういう事ではなくて――」
 さっきよりも若干後ろに下がった位置から、助手が地団太を踏む。
 もどかしくて仕方ないといった様子だ。
 だったら、さっさと逃げればいいというのに――。
「危険を感じたら逃げますから――」
 視線を目の前の爆弾へと向けたままそう伝えると、分析に意識を集中させる。
 基本的に時限式爆弾の仕組みは単純だ。
 タイマー機能を利用し、特定の時間になったなら起爆のスイッチを入れる。
 それだけであるなら、タイマーを切ってしまえばいい。
 ところが、本当にそうなら爆弾処理が苦労するわけがない。
 昨今は爆弾も精密化してきており、タイマーと起爆装置を一体化させようというのが自然な流れだ。
 そこで技術の見せ合いがおこなわれる。
 いかに解除しづらいタイマースイッチをつくるか。
 いかに難解なタイマーを停止させるか。
 その応酬が今までおこなわれてきたのだ。
 だが、忘れてはいけない。
 時限式爆弾は、起爆のスイッチを入れて初めて機能する。
 それは火花かもしれないし、物理的な衝撃かもしれない。
 はたまた化学的な反応という可能性もある。
 ……あぁ、なんと夢があるのだろう。
 時間が刻一刻と迫ってくる。
 だが、不謹慎な事に、この現状に楽しさを感じ始めている自分が居た。
 もう、周囲のことなどまるで気にならない。
 学者という病気があったなら、きっと私はとうに感染し末期状態にあるといえるだろう。
 それでも私は満足だ。
 たとえ、どんな終焉を迎えようと、最後までこうして学者でいられたのだから。
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短編 討論
「だから、お前の考えは間違ってるんだ!」
 語気を荒げ、つばが飛ぶのもいとわずそう言い放つのは、がっしりとした体格の男性だった。
 それなりに身体も鍛えているのだろう、感情に任せて机を叩いた際の音も、周りの人間に比べて段違いに大きい。
 今まではそれが威圧となって、相手の反論を封じることができていたのだろう。
 だが、今回の相手はそうはいかなかったらしい。
「それを言うならさっきの質問について答えてくださいよ」
 発言のところどころに口を挟みながら、時々相手を挑発し、煽るような言葉で激情を誘っていた。
 体形的には小柄で細身。
 肉体派と頭脳派とでもいえば面白そうな対立構造になってはいるが、実の所はお世辞にも見ていて楽しい議論ではない。
 そもそもの話、二人がケンカをしているのを嘲笑する為の企画なのだから、あながち間違いではないのだが、それは議論や討論とは別の次元の話だ。
 最早これは水掛け論。
 結果はもう最後まで見なくとも明らかだった。
 互いに意見を譲らず、そのまま終了するに違いない。
 どちらかが――この場合、体格の良い男性の方が言葉を返せなくなって、細身の男性が勝手に勝利宣言して終了だろう。
 ただ、それは決して優勢だとか討論の運びが上手だとか、そういった理由ではない。
 ひたすら相手の揚げ足を取って、批判するだけだ。
 彼自身の意見など、どこにもないのだ。
 結論として残るのは、負けたとみなされる男性の意見は間違いである、あるいは問題があるというニュアンスだけだ。
 さらに言うなら、片方が悪いから他方を選ぶべきという極論である。
 検証をろくにしていない意見が正しいだなんて、認めるのは理解に苦しむ。
 もっとも、この場にいる当事者である二人以外の人間は、そんなことはどうでもいいと思っているのだろう。
 皆が求めているのは、二人がくだらないことで言い争い、自分たちより劣っているという優越感を得る事なのだ。
 人間とは、愚かな生き物である。
短編 お出かけ前に
 静まり返った室内に、シャワーの音が響く。
 テレビやパソコンに電源が入っていたなら、その音も他愛ない音楽や音声によってかき消されていただろうが、今日に限ってはいずれも眠ったままだ。
 それ故に、水音がより大きく響いて聞こえ、まるで外で雨でも降っているのではないかという錯覚すら感じてしまう。
 もちろん、ガラス戸越しに見える夜景はきれいに映っている。
 空には若干雲が流れているように見えなくもないが、雨雲とは無縁と思えるような、些細なモノだ。
 更に耳を澄ますと、ジジジジという家電特有の待機音とでもいうのだろうか、電磁波を言語化したかのような音が耳に入ってくる。
 目を閉じたなら、隣の部屋の物音でも聞こえてくるかとも思ったが、実際は防音設計ということもあり、さすがに聞こえてはこない。
 窓の外から回り込んできたのだろう、それらしき人の声は聞こえないでもないが、それがテレビによるものなのか、隣人の声なのか、はたまた何について話しているのかまでは聞き取ることは困難だった。
 不意に、蛇口をひねったのだろうか、キュキュキュという音が聞こえ、その後を追うようにシャワーの音が止まる。
 どうやらシャワータイムが終了したらしい。
 ようやく自分の番になったかと、シャワーの準備を始める。
 とはいっても着替え用の衣類とタオル程度ではあるが。
 あらかた準備をしている内に、ドアが開く。
 身体はほんのり濡れたままではあるが、水気があるというよりもみずみずしいという印象を受ける程度。
 湯船につかっていたわけでもないのに体から湯気が上がって見えるのは、シャワーの温度が熱かったせいだろう。
「――あがったよ」
「――おう」
 それだけの短い会話のやりとりを交わし、入れ違いに脱衣所へと向かう。
 特別急ぐわけではないが、手早く衣服に手をかける。
 夜の街はまだまだ眠らない。
 にもかかわらず、早く出かけたいという気持ちが無意識のうちにせり上がっていた。
 浴室のドアを開け、中へと入る。
 シャワーの温度を確認し、お湯を出すと、若干強めの水圧が全身を清めていくのを感じ、ひとときの安らぎを覚えることができた。
 ――うっかり時間を忘れないように。
 それだけを頭において、数分のシャワータイムを過ごした。
短編 ブラックホール
 それは小さな監獄だった。
 私はそこに座っていて、頭のすぐ上にはアメジストを繋ぎあわせたような格子が張られている。
 頭上だけではない、前後左右、足元まで私の身体を取り囲み、包み込む格子は、美しくも禍々しい輝きを放っていた。
 実際触れてみるが、特別ごつごつとした感覚はなかった。
 いや、そもそも体に感覚があるのかさえ曖昧だった。
 ケージに入れられた小動物のごとく私の自由は封じられ、ここがどんな場所かも考える余裕はない。
 ただ存在するのは確実な焦燥感だけだった。
 まるで夢でも見ているのではないだろうか。
 残念ながら、それを確認するすべはない。
 きっと明確な思考を持っていれば、頬をつねるなり色々確認する方法を考え付くことができただろうが、そこまで思い至っていないので、認識が追い付くのは大分先のこととなるだろう。
 小さな檻の中から見える世界は、まるで四次元の空間をのぞいているかのように不定形で、さまざまな色がいびつに曲がり、溶け合いつつも互いに反発しあっている個所もあって、目を開けているだけで処理しきれない情報が飛び込んでくる。
 ほんの数秒直視するだけで、すぐに酔ってしまい気分が悪くなってしまった。
 目を閉じ、その場に手をついて呼吸を整えようとする。
 だが、どうにも息苦しい。
 ここに漂っているのが普通の空気なのかという認識すら薄れてしまったのだろうか、呼吸をすればするほど身体が重くなっていくようだった。
 固まっていく自分の意識。
 見えない力によって、心身ともに内へ、内へと押し込まれていく。
 抗おうとしても、全方向から攻め立てられる現状に、何もできず、なされるがまま受け入れるほかない。
 もしかしたら、このまま自分は無になるまで潰れていくのではないだろうか。
 そんな事を思うようになってくる。
 そこに恐怖だとか拒絶だとかいう感情は生まれなかった。
 私はこのまま消えてしまうんだ。
 どうしようもない現状に、笑いが生まれる。
 お腹がよじれるくらいに可笑しい。
 身体が縮めば縮むほど、檻もどんどん小さくなってくる。
 そして、最期――ぷちんと何かが潰れるような音と共に、小さく黒い点がそこへと生まれる。
短編 過去と現在
 公共の交通機関もじきに運行を終えようかという時間帯。
 夜間ということを差し引いても、都心から数十キロ離れたこの宅地に活気は見られない。
 過疎が進んでいるということも要因としてあるが、住人の高齢化も相まって、ゴーストタウンと呼んでも差支えのなさそうな、不気味な雰囲気が周囲に漂っている。
 とはいえ、一寸先も見えないくらいに田舎というわけではなく、最低限の街路灯は設置されているし、点々と電灯のついている家屋も確認できる。
 だが、ついさっきまで白昼のようにまばゆい歓楽街を目にしてきた自分にとって、その落差は物悲しさを覚えてしまう。
 無意識のうちに吐いていたため息の音に、自分で驚き、思わず足を止めた。
 酔いも大分冷めてきているらしい。
 それも当然か。
 電車を降りてから、かれこれ十数分。
 最後にアルコールを摂取してから数時間は経っている。
 泥酔でもしていない限りは無事帰宅できる距離であるのは、ある意味ありがたい。
 ただ、そんな中外灯の下に不審な影が目につく。
 最初はただの粗大ごみか何かだと思っていたが、近づくにつれて、その影が人型に見えてきた。
 そしてその影との距離が十数メートルほどまで縮まったころ、それが何らかの露天商であることがわかった。
 黒い上着に下は作業着か何かだろうか、頭にはつば付きの黒い帽子を被り、顔にはマスクとサングラス。
 不審な事この上なかったので、気づかない振りをして素通りをしようと思った。
 だが、路上に敷かれたシートの上に置かれた紙に書かれていた言葉に思わず目が留まる。
 ――過去に戻れる薬、あり〼。
 とても信用しがたいし、胡散臭い謳い文句であった。
 しかし、それを堂々と並べるだろうか。
 シートの上にはそれらしき液体の入った瓶が数本、横に寝かせておかれていた。
 こんな人通りのない場所で、うっかりすれば見逃してしまいそうな佇まいで、どうしてそんな突飛な商品を売り出しているのだろうか。
 もしかしたら、実は自分は泥酔どころか昏睡していて、正常な判断ができていないだけではないのだろうか。
 仮に、それらの薬が本当だとするなら、どんな人が購入するのだろう。
 それはきっと、少なくとも現在に満足できていない人なのだろう。
 辛い過去をやり直したいという人も中に入るだろうが、あえてつらい過去をもう一度経験したいと思う人間はそうそういない。
 想像するに、現在が楽しくなくて、こどもや学生の頃は凄く楽しかった――そう思うような人の為の商品なのだろう。
 興味がないと言えばうそになる。
 ただ、その欲望と万が一違法薬物であるかもしれないというリスクを量りにかけた場合、自分には選択する勇気はない。
 そう、これは呑み過ぎが故に見た変な幻覚なのだ。
 夜空に浮かんだ雲がゆっくりと動き、下弦の月が姿を現す。
 ぼんやりと明るくなった家路を、これまたぼんやりとした意識のまま、自分は歩き続けた。
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