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短編 空を飛ぶ怪
 人が空を飛ぶわけはない。
 そんな事、改めて口に出すまでもないほどにわかりきっていたはずなのに。
 今、実際にこうして目の当たりにすると、自身の常識とかみ合わなくて、顔には出さないものの、頭の中は混乱していた。
 ありえるはずのない事態。
 それを自身の納得のいく形で理解するには、とある仮説にしか行きつかなかった。
 ――何かしらのトリックが隠されている。
 目に見えないワイヤーが張られているのではないだろうか。
 それとも、鏡か何かでその場にはない光景を映し出しているのではないだろうか。
 それらを検証しようにも、自分の置かれている状況はあまりにも不利だった。
 まず夜という時間帯。
 日光という最高のライトがないおかげで、人間の目には人工光で照らし出された部分には注意が及びにくい。
 これでは看破しようにもかなりの時間と集中力を要してしまう。
 次に対象との距離だ。
 空を飛ぶというからには、地上に立っている自分との距離は必然的に開いていくのは当然のことなのだが、それ以前に何かしらのギミックがあったとしてもこちらがそれを悟るのはかなり難しい。
 目の前で浮かぶプロセスを確認できるならともかく、そうではないという事は何か大それた仕掛けが用意されている可能性を残しているということでもあるのだ。
 最後に挙げられるのは、その飛行時間だ。
 何かでつられているのであれば、その挙動を動き方から予測することも可能だ。
 しかしながら、それが短時間であるなら、それを見抜くのは難しい。
 同じ場所に留まっていないのなら猶更だ。
 結局、遠くで飛行している様子を見せられて、その仕組みを悟らせずに信じろというのは、手品やマジックショーでよくある手法に他ならない。
 それを信じろという方が無理な話だ。
 逆に、だからこそ燃えるというものでもあったりする。
 奴の空飛ぶ秘密――それを暴いてこそ、この手品に対する勝者となるのだ。
 そうと決まれば、その者が空を飛んだであろう場所の周辺を探索してみるのが一番だろう。
 今ならまだ間に合う。
 証拠を片づけられる前に、現場を押さえるのだ。
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短編 七月の梅雨
 朝方は気温も低く、口から漏れる吐息も、七月という季節に見合わない真っ白な色をしていた。
 梅雨が長引いているだとか天気予報では言っていたが、それがどうしたのだというのが正直なところだったりもする。
 空を覆う雲は、見るからに分厚く、晴れの気配はまったくない。
 それどころか、三か月前に仕舞った冬物の衣類を引っ張り出して来たくなるような肌寒さだ。
 薄手の長袖を身に着け、それでも足りないと身体が訴えてくるので、コーディネート的にはまったく似合わないだろう厚手の上着をその上から羽織る。
 それで寒さが治まればいいのだが、その程度で解決などするわけもない。
 なんで外にはエアコンがないのだろうと、油断したらすぐに悪態をついてしまうに違いない。
 道端の水たまりたちも、こちらの熱を奪おうとその機会をうかがう獣のようにも見えてくる。
 都会の真ん中にいるのに、雪山で遭難しかけているような、そんな心地だ。
 路地の建物や壁にぶつかりながら吹き抜けていく風も、妙に湿っぽい。
 それが余計に不快だった。
 冬の風は確かに冷たい。
 だけど、それなりに乾いているので、なんというか、一度しのぎ切れば堪えられそうな印象がある。
 ところが今こうして自分を襲っている風はというと、冷たさを感じた後にも、まだじんわりと冷たさが残るような感覚があるのだ。
 もう、季節感なんて言葉さえ絶滅してしまったのではないかと思える始末だ。
 とにかく、早く日が昇ってほしい。
 そうなれば、少なくとも今よりはマシになるはずだ。
 今にも雨粒が再来しそうな、微妙な空気。
 ここで今からバケツの水をぶちまけたりしたなら、その衝撃で一気に大雨が降ってきてしまうのではないだろうか。
 そう思えるくらいに、今自分が立たされている世界は冷たくて、寒くて、妙に息苦しかった。
 この不思議な圧迫感に溺れてしまう前に、できることなら今一度、あの温かな春の光を見てみたかった。
 口から漏れる吐息は温かく、自分の鼻先を温めた後、そっと消えていった。
短編 後世へ伝える術は
 油と金属、そしてどこか焦げ臭さの残る空気は、ハッキリ言って好き嫌いが分かれる空間といえるだろう。
 だが、好きだから、嫌いだからと言っていられるのはふらりとその地を訪れる人間の話であって、その地で働く者たちによっては、それは何の意味もない。
 職業によっては職人という肩書は幾らかではあるがプラスのステータスといえるだろう。
 だが、そんな彼らに素材を提供する作業員たちの待遇は決して好条件とは言い難い現状があった。
 着ている作業服を油で汚しながら、機器のメンテナンスを行う姿は、傍目にはいかにも働いている人間という印象を与える。
 そこに生きがいを見出した人間は、そのまま現場に残り続け、自分に合わないと見切りをつけた人間は、その地を去っていく。
 職業選択の自由というものが与えられている現在。
 そこで働く人間の年齢層は上がり、若者の姿はどんどん減ってきていた。
 しかも、新たにやってきた若者たちに対して、自分たちのやり方を貫く様子は、美徳というのか、それとも傲慢というのか、意見は分かれるだろう。
 時代というものは常に流れている。
 そこで自分たちが変わらない事が何を意味するのかというと、新しい世代との断裂である。
 華やかさとは無縁の業界。
 それでも人々がやってこれたのは、それに見合うだけの見返りがあったからだった。
 ところが最近は不景気のあおりを受けて、それまでと同じ条件とは決して言えない。
 それは業界の盛衰に左右されるモノが大きい。
 それを理由にするというのもおかしな話ではあるが、現実問題としてそうであるのだから仕方がない。
 他の業界でも後継者不足だとかが嘆かれている。
 しかし、それは今まで通りのやり方を続けようとしているが故であることを前提としての話だ。
 現在、自分たちのやり方しか知らない人間が多い。
 いや、むしろほとんどがそうだろう。
 それを続けようとするなら、いずれ人心は離れていく。
 時代と共に移りゆく価値観。
 そこに見合う何かを、努力して提供するのが、後世への努めであるといえなくもない。
短編 燃え上がる
 赤々と燃える炎は、周囲を明るく照らし出し、見る者すべてをその光の虜にしていた。
 時折吹く風を吸い込み、炎はその都度より大きく燃え上がる様は、自然への畏怖をおのずと感じてしまいそうなほどだ。
 炎との距離はそれほど離れてはいない。
 それ故に、時折火花がぱちぱちと飛んできたりもして、顔が少しかゆく感じる。
 熱風が顔の皮膚を炙り、反射的に逃げ出したくなる。
 焼き焦がれる感覚はこんなものなのだろうかと思いながらも、その体はその場に釘づけにされたかのように両脚は動かなかった。
 炎の魔力というのだろうか、不思議な魅力によって意識がないがしろにされる。
 よく、催眠術などでろうそくの灯を見つめていると催眠の世界に入ってしまうという話を聞くが、それに何か関係しているのかもしれない。
 しかし、それを確認する手段もなければ、それほど知りたいという欲求もない。
 ただ、今目の前に広がっているのは、まぎれもなく現実の炎であり、下手をすれば自分すらもただでは済まない。
 もしここに鏡があって、自分の姿を客観的に視認することができたなら、きっと日焼けをしたように真っ赤になっているに違いない。
 それからのことはあまり覚えていない。
 ただ目の前で燃える炎がその勢いを増していく。
 まるで天まで伸びる灼熱の花がその花弁を思い切り広げるように、神々しさと気高さと、妖艶な雰囲気が一度に感じられた。
 視界が光で包まれる。
 眼球が乾いていく。
 全身の毛孔が開いていくような、不思議な感覚だった。
 白か赤か、それとも黄色か。
 暁色ともいえる炎のグラデーション。
 それを網膜に焼き付けたところで、世界がホワイトアウトする。
 まるで夢に落ちるように。
 どこまでも意識は沈んでいく。
短編 闇沼
 美しく映る世界の裏側には、それと同等の醜さが潜んでいるものだ。
 ただ、それらは蓋がされ、一般の人の目には留まらないようにできている。
 それ故に、生涯その存在に気づかずにいる人もかなりの数存在する。
 それはそれで幸せなのだろう。
 だが、世の中には運悪く、その醜い現場に立ち会わなければならない人もいる。
 それは仕事の為であったり、何かの代償としてであったり、あるいは偶然目にしてしまったり。
 興味本位でそこに首を突っ込もうとする人間も少なからずいるが、それで癒えることのない傷を負う者も多数存在する。
 裏社会という言葉を使って表現する者もいる。
 言葉の響きはカッコよさを覚えるものだが、決してその実情は甘いものではない。
 かといって、裏側から表社会を牛耳るだとかいう大それた部分もない。
 強いて例えるなら、切り離された世界、見捨てられた世界といったところだろう。
 そんな社会だからこそ、人間の生き様だとか執念、渇望といった感情などが、露骨に表れてくるものだ。
 生き残る為には手段を選ばない――そんな意気込みが空気感から伝わってくる。
 昼と夜とで印象が変わるというように、同じ場所であっても、表の世界か裏の世界かで見える光景も違ってくるのだ。
 ――裏の世界からの光景が見えた時点で、もう手遅れであるともいえるが。
 踏み入れてしまった闇の世界。
 それはまるで底なし沼にはまったかのように一人の力ではどうにもならない。
 そこから引き揚げてくれる人間の存在があれば、もしかしたらという事もあるかもしれない。
 しかし、世の中は残酷だ。
 手助けしてくれる人など存在しない。
 この世界の存在は知られてはいけない――そんな暗黙の了解によって、人は孤立するのだ。
 もしかしたら、この裏の世界は求めているのかもしれない。
 すべてを闇に呑みこまれながらも、その闇すら取り込んで這い上がっていこうとする、強い執念を。
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