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短編 振り返るべからず
 背後から聞こえてくるエンジン音。
 良い闇に紛れてその姿は視認することはできない。
 音の大きさからして、決してはるか遠方でのものではないのは明らかだ。
 そうなると、そのエンジンの持ち主は無灯火ということになる。
 ――こんな時間帯に無灯火で?
 自分も経験はあるが、外灯が一定の感覚で続いている道路はある程度視界を確保できるので、運転できないこともない。
 しかし、ここはそんな街路灯が並ぶような街中ではなかった。
 どちらかというとここは山道で、しかもカーブも多い。
 そんな道を、たとえ地元の人間であってもライトなしで走行するなんて考えられない事だ。
 近づいてくるエンジン音。
 だが、いくら近づいて来ても決してそれはこちらを追い抜いていくことはなかった。
 決して徐行をしているような、緩い感じではない。
 一定以上の速度を持ったものだというのが肌で感じて理解できる。
 まるで自分の背後に無限の道路ができているかのような、そんな気さえしてきた。
 一体何がどうなっているのか。
 今すぐにでも振り向いて確認したいという気持ちがある反面、それを知ることに恐怖している気持ちもあった。
 万が一、人知を超える何かが迫ってきていたら――。
 どちらかというと非科学的には否定的な人間ではあるが、まったく信用していないというわけではない。
 そんな中途半端な人間だから、余計に恐怖を感じているのかもしれない。
 振り返るべきか、それとも振り返ざるべきか。
 足を止めるべきか、そのまま進むべきか。
 この胸の鼓動は歩いているが故か、それとも恐怖故なのか。
 胸の辺りが異様にざわつく。
 落ち着きたいのに、どうしたらいいか思考が湧いてこない。
 昔話などで、ここで振り返ったらそのまま帰らぬ人になるというのを聞いたような記憶がある。
 それは決してこの地域の逸話ではない。
 でも、そんなことを思い出してしまったのは、少しでも情報が欲しいという自分の欲求のせいだろう。
 とにかく、今日は振り返らない。
 もしかしたら聞き違いか、知らず知らずのうちに耳に何かしらの傷を負っただとか、そんな感じかもしれないのだ。
 足早に夜道を歩く。
 目に見える灯りは遠方にある民家の灯。
 まだ数百メートルはあろうかという山道を、ずっとエンジン音を耳にしながら歩くのだった。
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