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短編 白波色の猫
 晴れ渡った空の下は常に暖かな陽気が降り注ぎ、朝からご無沙汰だった眠気が絶えず目蓋を押し下げようとしてくる。
 午前の仕事も粗方終わったので別に一眠りしても午後の作業にそれほど大きな支障は出ないだろう。
 船の上という事もあるので、流される不安もないわけではないが、岸とはロープで繋いであるのでそれほど遠くまでいくこともない。
 海原も穏やかで、船の上で横になれば自然と揺りかごのような心地よい夢の国へと今にも旅立てそうだった。
 目元だけ影が重なる様に位置取って、ごろんと横になる。
 首から下が太陽の光で温められていくのがわかる。
 まさにポカポカ陽気といった感じだ。
 更には波の音やら海鳥の鳴き声が程よい大きさで耳に入ってくる。
 静寂とは違う、安らぎに満ちた環境音が掛布団のように意識に覆いかぶさってくる。
 そのまま流れに身を任せるように意識を手放せば、いつの間にか現実とは違う別の世界へと足を踏み入れていた。

 ――意識が現実へと引き戻されたのは、ひんやりとした風が鼻先をかすめていった感覚からだった。
 目元をこすりながら体を起こすと、そこには一匹の猫がいた。
 キラキラと輝く砂浜のように白い毛並のその猫は、事もあろうに舟の上で干してあった魚を口にくわえていた。
「あっ、このヤロっ!」
 一体どこから船へと入ってきたのかはわからないが、今は猫に捕られた魚にばかり注意が向いていた。
 なんとかとびかかって奪い返そうとするが、人間と猫ではやはり俊敏さのレベルが違う。
 とびかかる人間をひょいとかわし、反対側へと向かう猫。
 しかし、その猫は逃げようともせずじっとこちらを眺めていた。
 ……いや、船の上だから逃げ場などないのだが、その瞬間の自分にはそんな事を冷静に判断する余裕などなかった。
 そしてその猫の挑発に乗る様に船上での追いかけっこを続けること数十秒。
 ついに猫は船の上から飛び降りる。
 その瞬間ばかりは目を疑った。
 飛び降りた先は陸地ではなく、明らかな青海。
 猫が魚をくわえて泳ぐだなんて話、聞いたこともない。
 あまりのことに、魚を捕った泥棒だということも忘れ心配になって船から身を乗り出して猫の姿を探す。
「――えっ?」
 そこにあったのは世にも奇妙な光景だった。
 まるでそこに透明な板があるかのように、猫は海面の上に立ち、こちらを振り返ってみていたのだ。
 その姿に柄にもなく神々しさを感じてしまって、思わず手を合わせた。
 それを確認してか、猫は満足そうに悠々と海原の向こう側へと歩いて行った。
 もしかしたらアレは海の神様か何かの化身なのかもしれない。
 そう思ったが、同業の仲間にその話をしても誰も信じようとはしなかった。
 ところが、それからというもの、漁に出ると豊漁が続き、家は徐々にではあるが裕福へとなっていった。
 ――きっとあの猫神様のおかげに違いない。
 そう信じていたこともあって、それからというもの、漁の度に船の上には干した魚を掲げるようになった。
 時々、それがなくなっていることもあったのだが、きっとそれはあの白猫様が魚をくわえていったからだと思っている。
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