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短編 通達と使命感
 夜間の召集ということもあって、部屋を訪れる顔はいずれもけだるげで、決して好意的という雰囲気は感じられなかった。
 私語こそなかったが、それ故に足音やら席に着く際に生じる椅子の音やらが余計に響いて聞こえる。
 これで緊張するなという方が無理な話だが、やってくる多くの者は緊張よりも不満の方が大きいらしく、より一層場の雰囲気がピリピリと張り詰めていく。
 これで召集の内容が、脱衣所に残った下着の持ち主は誰ですか?などといった緊急性の「き」の字もないようなものだったら暴動は必至だろう。
 皆が貴重な時間を割いてここに出向いているのだ。
 少なくともくだらない理由ではない事を祈りたい。
 そうこうしている内に、部屋へと最後の一人が入ってくる。
「……皆、集まってるな?」
 重々しい声が室内に響く。
 軽く流すように視線を巡らせただけにもかかわらず、場の雰囲気から不満の色が瞬時に消えた。
 それだけの迫力と手腕があるのだろう。
 自分はここにきて日が浅いということもあって、まだ把握し切れていないが、恐らくは上官だろう。
 上官の名前も知らないのかと怒られそうではあるが、自分は彼の部下ではない。
 そもそも、自分はただの給仕であって、本来であるならこの場に居る事すら疑問を覚えなければならない存在だ。
 だが、この張り詰めた雰囲気の中でそれを問うだけの勇気などあるわけがない。
 ここは無難に、ありがたいお言葉を聞いて、何事もなかったように自分の持ち場へと戻る――それだけでよいはずだ。
 そんなことを考えている内に、上官様は一つ咳払いをして早速本題に移った。
「――皆も知っていると思うが、この度我が基地へ向かっていた輸送艦が撃沈された」
 普通であればここでざわめきが上がるところだが、さすが訓練された部隊、驚きの声すらない。
 そこで自分にもようやく話の内容が見えてきた。
 確かに物資がなければ給仕の職にも支障が出る。
 それ故に自分もここへと呼ばれたということだろう。
 しかし、これは由々しき事態だ。
 食事の配分も今まで以上にシビアに考えなければならないのだ。
 現地調達できる食糧をなんとかして増やすか何かの対策を練らねばならないだろうか。
 色々な考えが頭を巡るが、とりあえず職場に戻ったら相談してみるとしよう。
「……というわけで、本日は以上。明日も士気を高め、一日を乗り切るように」
 それだけ言い残して上官様は去って行った。
 足音が完全に途切れたところで、ようやく場の空気が弛緩する。
 だが、そこに上がる声は不満だとか怒りだとかそういった類ではなく、危機感――。
 勝つことは重要だが、それ以上に生きる事ができなければそれは大変に難しい。
 それを身をもって知っているからの危機感だろう。
 改めて自分の仕事に責任を感じ、そしてこの人たちを支えよう。
 言葉には出さなかったが、そう強く感じた瞬間でもあった。
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