IPPI STYLE
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
短編 手料理という名の恐怖
 キッチンからにおってくるのは、芳醇な香りでも、スパイシーな香りでも、脂がとろける香りでもなく、どこか危険を感じる、くすぶった香りだった。
 いや、香りと呼ぶのも正直躊躇われるほどで、もしかしたら炭くさい空気とでも言った方がよいのかもしれない。
 とにかく、キッチンで現在作製されているのは、少なくとも自分が手放しに喜べる料理ではないという事だけは明らかだろう。
 本当であれば、今すぐにでも逃げ出したい。
 だが、それは不可能だ。
 数の力というのは偉大なもので、精神的に逃げ道を塞ぎ、逃げた後でもそれを引き合いにしていつまでも責め続けてくる。
 そのリスクを知っているからこそ、今ここで身を粉にしてこのいつ訪れるかわからない苦行を耐え抜くという選択をせざるを得なかったのだ。
 逃げられないのなら、少しでもキッチンに入って被害を最低限に抑えられないかと試みてみたが、こっちに全部任せろと言われ締め出される始末。
 今や、刑の執行を待つかのような心地だ。
 一体どんな料理が運ばれてくるのか、せめて食べられるものであってほしいと内心祈りながら、テーブルに着いている。
 それでも、嫌な予感というものは自分がどんなに考えないようにしようとしても、当たってしまうものだ。
 というか、キッチンから漂うスモーク臭が食道にまでやってくるというのは、いろいろ問題ではないのだろうか。
 ……個人的には何かの手違いで調理が中止にでもなれば救いなのだが、それは楽観的かつ希望的だろう。
 そして、無情にもその時はやってくる。
 気のせいかもしれないが、その焦げっぽい臭いがどんどん強くなっているみたいだった。
 それは、何を意味しているのかというと、その料理らしきものがこちらへ向かっているという事で――。
 口の中の水分がいつの間にか蒸発して、カラカラになっていた。
 本能的に危機感を覚えているのかもしれない。
 きっと今の自分の顔はいびつに笑っている事だろう。
 彼女に不審に思われないか、それだけが不安だ。
 そんな事を考えている内に最後の扉が開かれる。
 より一層強く鼻に着く炭素の香り。
 そこに自分は、食欲を生み出すことはできなかった。
 しかし、料理を生成した本人はそんなことなど関係ないのだろう。
 彼女には見えていないだろうが、今自分はものすごい量の汗が背中に流れている。
スポンサーサイト
コメント
コメント
コメントの投稿
URL:
本文:
パスワード:
非公開コメント: 管理者にだけ表示を許可する
 
トラックバック
トラックバック URL
トラックバック
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。