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短編 書類の行方
 事務所にはピリピリとした緊張感がめいっぱい充満していた。
 デスクの上には書類が乱雑に散らばり、床の一部まで白く埋め尽くしているし、引き出しも開きっぱなし。
 お世辞にも整理整頓されているとは言えない状況だ。
 そうなるのも無理はないだろう。
 何故なら会社の命運を左右するような重要な契約書類を紛失してしまったからだ。
 事務所内を隅々まで探し回った挙句、何の関係もないような机の中やロッカー、ついには休憩所のコーヒー棚まで頭を突っ込んでみたが、結局見つからずじまい。
 ある事務員が書類をまとめて取引先へと持って行ったことがわかり、早急に連絡を取って、現在は確認してもらっている最中だ。
 上司らしき中年男性は平静を装って自らの席に着いてはいるが、視線は泳ぎ、指先も絶え間なく動いている。
 他の事務作業員たちも、一大事に気づいたらしく、その雰囲気に呑まれて自分たちの仕事に戻ることもためらっている様子だ。
 そんな中、出先の事務員から連絡が入る。
 ケータイの呼び出し音にビクッと反応するが、すぐにポケットから取り出し、一呼吸を置いた上で上司は電話に出た。
「……はい。私だ……うん、うん……それで?」
 固唾をのんで皆が見守る中、事務所内に上司のこわばった声での頷きが続く。
 そしてそんなやりとりが数十秒間続き、上司はそっと通話を切った。
 皆の視線が集まる。
 上司は深く息を吐き、天井を見上げた。
 その様子からは、書類が見つかったかどうかはにわかに判断つきがたい。
 これからの責任の所在について考えているのか、それとも見つかったという安心感にひと時の休息を味わっているのか、所員の顔にも不安と緊張の色がより濃く表れようという瞬間――ようやく上司が口を開いた。
「――例の書類についてだが……見つかった」
 その一言を聞いた瞬間、事務所内に歓喜の声が上がる。
 上司も喜ぶ部下たちの姿を見てようやくこわばった顔の筋肉を緩めた。
 あとは出先の事務員が混入していた書類を持ち帰ってくれれば万事解決。
 最悪の事態だけは回避できたことに心から感謝しつつも、散らかった事務所内を改めて整理し直さなければならないことに、上司は苦笑を浮かべるのだった。
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