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短編 歴史の積み重なる場所
 扉を開けると、涼やかな空気が、私の首元や足の下といった隙間から後方に向けて抜けていった。
 屋外と比べればまだ全然マシとはいえるけど、それでも日中の学校は思いの外暑い。
 一部の教室は空調が効いている場所もあるが、廊下についてはほぼ例外なく暑さが潜んでいる。
 だからこそ、私は図書室の入口で立ち尽くしてしまったのかもしれない。
 窓の外から聞こえてくるセミの声と、熱くなりかけた身体を覚ましてくれる涼風。
 そこはまるで、世界の境界に立っているかのような、そんな感覚だった。
 どれほどの時間、そうしていたのだろう。
 夏休みという事もあって、図書室の利用者は普段よりも格段に少ない。
 それ故に、この世界には自分しかいないような、そんな大らかで安らかな気持ちに揺られていたのかもしれない。
「――あの、ドアを閉めてもらえませんか?」
「あっ、すいませんっ!」
 突然声を掛けられ、我に返るとすぐさま図書室に入り、ドアを閉める。
 背後でドアが閉まる音が響き、再び夏の音が聞こえ始めた。
 そうだ、図書室が開いているということは、貸出を担当している人がいるというわけで、まったくの無人などありえないのだ。
 そんな簡単な事柄もわからなかったというのもそうだが、それ以上に意識をトリップさせかけていた自分を見られたという気恥ずかしさの方が大きかった。
 顔はこの冷風の中でも当分は熱いままかもしれない。
 私に声をかけたのは図書委員の女子らしく、今は貸出カウンターの中に戻り、何やら作業を始めていた。
 いや、こういう場合、作業の途中に私がやってきて、ずっとドアを開けたまま突っ立っていたものだから、それを中断したと考えるのが妥当だろう。
 図書委員さんはこちらを気にする様子はなく、視線も意識も手元の書き物へ向けられている。
 だけど、なんだか申し訳ない気持ちになって、私は若干忍び足気味に図書室の奥へと向かった。
 なるべく早く、彼女の視線から消えたい。
 そのためには、目当ての棚へと向かうのが一番いい。
 そんな単純な理由からだった。
 最初の私が抱いた予想は正しく、棚をいくつものぞいて奥へ進んでいったが、本を探している生徒の姿は一切見られなかった。
 その無人の空間に、激しく動揺していた自身の心境も少しずつ落ち着き、夏の世界にゆっくりと溶け込んでいく。
 古めかしい本の匂いが、夏の記憶を呼び起こさせた。
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