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短編 二人の距離は
 シトラスの香りが鼻先でふわっと漂う。
 それも一瞬のことで、次に感じたのは、甘く芳醇な先輩の匂いだった。
 互いの息さえ交換できそうなほどの距離。
 あと少しくちびるを突き出せば、先輩とキスができてしまうのではないか――そんなことさえ考えてしまう程の近さだ。
「あ、あの……先輩?」
 恐る恐る声を上げる。
 ここは自分の家でも、先輩の家でもない。
 どちらかというと学校という公共の場だ。
 だから、もしかしたら誰かにこの場を見られるかもしれないし、変な勘違いをされるかもしれない。
 それに何より自分が変に意識してしまっていることを先輩に悟られたくなかったというのが一番の理由だった。
 顔が赤くなっていないだろうか。
 へんな場所にニキビとかできてないだろうか。
 ご飯の食べこぼしが口元についてたりはしないだろうか。
 そんな不安がぐるぐると頭の中でいつまでも回り続ける。
 先輩の顔があまりに近すぎて、どんなことを考えているのかもわからない。
 でも先輩は何も話してくれることはなかった。
 ただじっと私の目をみつめているばかり。
 ここが学校だということを忘れてしまう程。
 いつ他の先生や生徒たちが入ってきてもおかしくはない場所だというのに。
 それなのに私は、この状態がずっと続けばいいのにと思ってしまっていた。
 互いの体温がすごく高くなっているように感じる。
 互いの胸同士が接触して、心臓の鼓動が共有される。
 自分が先輩の、先輩が自分の身体の一部になったような、そんな気持ちになって、思考がとろけそうになる。
 こんなことならリップクリームを塗っておけばよかった。
 数分前の自分を憎みつつ、感情の赴くままに身を任せる。
 もう、周囲のことなんて気にしなくていい。
 今の自分の目には先輩しか映っていないのだから。
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