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短編 自分とよく似ている人
「よかった……本当に良かった……」
 そう言ってカナは、なんとか見つかった古めかしい箱を抱きしめながら、その場に座り込んだ。
 鬼気迫る表情で探し回っていた様からも、きっとそれが彼女にとってとても大切なものであることは、それほど親しくはない仲であっても容易にわかる。
 カナの泣き声が、スタジオ内に響く。
 それが場の張り詰めた空気を緩和させ、一緒になって探していたスタッフや他のアーティストたちの表情も柔らかくなる。
 何はともあれ、見つかってよかった――そう表情で言っているかのようだった。
 カナは相変わらず泣きじゃくっている。
 しかし、それを取り囲む環境は、少しずつ変わってくる。
 スタジオに和やかな雑言が戻ってくる。
 スタッフたちも自分たちの仕事へ戻り始め、作業を再開しようかという流れが生まれてきていた。
 だが、そんな流れを一気に絶ち切るがごとく、一人の男性アーティストがカナへと近づく。
 特定の層には人気のある、最近話題のバンドの、確かギター担当で、名前はケイタだったはずだ。
「――お、おい」
 同じバンドの仲間と思われる男性が呼び止めようとするが、その声は届いていないらしく、ケイタはギターを提げたまま女性の目の前に立つ。
 カナも人の気配に気づいて顔を上げる。
 瞬間――ケイタは注意の逸れたその箱を手に取る。
「あっ!」
 慌ててカナが取り返そうと手を伸ばすが、ケイタが寸前の所で素早くそれを持ち上げたせいで届かない。
「おい、何やってんだよ!」
「変な事してないで、返してやれって!」
 驚きと怒りの入り混じったような仲間の声がケイタに向けて放たれる。
 しかし、ケイタは険しい顔をよりしかめる。
「……こんなのにすがってるから、お前はダメなんだよ!」
 明らかに場の雰囲気を無視したケイタの叫びに気圧されて、皆が口をつぐむ。
 それから間もなくしてケイタは振り上げた腕を思い切り振りおろした。
 彼が何をしようとしているのか――一番に気づいたのはカナだった。
「いや……ダメ、やめてっ!」
 しかし、覚悟を決めているのか、ケイタは聞く耳を持たない。
 カナの叫びを切り裂くように、ケイタの腕はまっすぐスタジオの床へとめがけて落ちていく。
 ここで手を放せば、確実に箱は床にぶつかり、バラバラになってしまうことだろう。
 だが、寸前のタイミングで何者かがその手首をつかんだ。
「――えっ?」
 それに一番驚いたのは他でもないケイタだ。
 ケイタの手首をつかんでいたのは、俗にセンセイと呼ばれているケイタのバンド仲間だった。
 センセイは手首をつかんだまま、もう片方の手でケイタから箱を取り上げると、それをカナへと返却する。
「ありがとう、ございます」
 カナは両手でそれを受け取ると、今度こそ手放さないようにと、両腕で抱きしめるように箱を包み込んだ。
 センセイは柔らかな眼差しでその様子を見取ると、今度は鋭利な視線をケイタへと向ける。
「……大人になりなさい」
「――っ! っるせぇよ!」
 力任せにセンセイの手を振り払うと、ケイタは怒鳴る。
 先ほどとはまた違った緊張感がスタジオ内に広がり、スタッフたちも作業が緩慢になりつつあった。
 センセイは静かに、しかし重々しい口調で続ける。
「君がさっきしたことの意味は、君自身が一番わかっているはずでしょう」
「……くっ」
 ケイタの顔が歪む。
 頭では理解できるが、どうしても納得したくはないという感情が、表情から容易に受け取れた。
「――ったくよぉ! どいつもこいつも――」
「――ケイタ!」
 センセイの手がケイタの首元に伸びる。
 ブチッという音と共に、ケイタが提げていたペンダントがちぎれる。
「――あっ!」
 ケイタの驚きの声が響いた。
 センセイは、とっさに手を伸ばしたケイタの手を掴み、冷たい声で言う。
「君が彼女を嫌うのは勝手だが、その原因は彼女が君自身とよく似ているからではないかね?」
「ぐっ……うるせぇよ!」
 センセイの手からペンダントを奪い取ると、ケイタはそのまま足早にスタジオの出口に向かう。
 その後ろ姿を眺めながら、センセイは深いため息を吐くのだった。
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