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短編 朝顔の思い出
 朝顔の花が人知れず目を覚まして、申し訳なさそうにその花弁を広げる。
 赤紫色に染まったその素顔は、遠い昔、小学校の夏休みの成長記録だったかの課題を思い出し、なんとも懐かしい気持ちになる。
 とはいっても、そんなのは数十年前の話なわけで、今の子たちに言っても首を傾げられて終わりだろう。
 時の流れは早いものだ。
 ほんの数年前までは自分はあの小さな箱庭の中で、くだらないことで喜怒哀楽を、何のためらいもなしに表現できていたのだ。
 当時の自分は、何故あんなに純粋に世の中を信じていられたのだろうか。
 きっとそれは、学校という空間が特殊で、保護された場所だからだろう。
 一度学生という保護下から外れると、そこには社会の闇がはびこっている。
 それは人だったり、モノだったり、見えない力だったり。
 とにかく、学生の頃は裏切りという行為自体が悪と信じて疑わなかった。
 だからこそみんなルールを守ってはいたし、反抗しようとする人はいてもその対象は教師とか親とかいう、味方の大人だった。
 そう、なんだかんだ言っても彼らはこどもを裏切ろうとしているわけではないのだ。
 そして、味方の大人がいるということは、敵の大人もいるっていうことになる。
 敵というと聞こえは悪いかもしれないが、簡単にいうと裏切る人間ということだ。
 中には裏切る以前に自分の都合の為に利用しようとする輩もいる。
 誰が味方で、誰が敵なのかもわからない――そんな世界にいきなり放り出されて、騙されそうになったり、痛い目に遭ったり、その中で時々救いもあったり。
 肌で感じたことをそのまま学習して、賢くなって、普通の大人になっていくのだ。
 そういう意味では、普通の大人っていうのは決してきれいじゃないし、むしろ汚い人間の方が多いかもしれない。
 ただ、そんな大人の単調かつ危険に満ちた世界で、当時の純粋な気持ちを思い出せたのは、意図せぬ収穫だった。
 朝霧がうっすらと視界を遮ろうかという住宅街の端っこ。
 人知れず朝顔は顔を染め、そしてまだ見ぬ誰かを癒すのだろう。
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