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短編 夏の音
 静まり返った室内に、ケータイの着信音が鳴り響く。
 流行歌でも、一昔流行った音楽のアレンジでもなく、ただただ機械的な電子音が、やかましくその存在を誇示している。
 しかし、いくら経ってもケータイの持ち主はそこに現れない。
 厚手のカーテンで閉め切られた部屋は、まるで夕暮れ時のように暗く、ケータイのLEDライトばかりが不気味に点滅していた。
 着信は十数秒続いた後に途切れ、静寂が部屋に訪れる。
 薄暗い空間では物の識別が難しいが、決してきれいに整頓された部屋ではないという事は容易に認識できた。
 言い方を変えれば、モノで溢れた部屋ということになるのだが、その辺りは一人暮らしだとか個人の性分によるものなので、どうとも言えない。
 状況から察するに、ケータイを忘れてどこかへ出かけたりしていると考えるのが妥当だろう。
 もしくは、数分で戻ってくるからという理由で持ち出さなかっただけかもしれない。
 静まり返った部屋に入ってくるのはかすかな物音のみ。
 カーテンの仕切りがあるせいもあって、外部の音はそのまま吸い取られてしまうからだ。
 家電製品が放つ、微細な電子音。
 自分自身がキノコだとかもやしだとか、そういう物体になってしまったような気分にさせるには十分な部屋だった。
 時候は夏。
 外部の蒸れた空気の影響もあって、室内にも徐々にではあるが熱気があふれてくる。
 たとえるなら蒸し風呂状態とでもいうのだろうか。
 備え付けてあるであろうクーラーが起動していたなら事態もまだ違っていただろうが、もう後の祭りだ。
 やがて部屋の主である若い女性が玄関のドアを開けて部屋へと戻ってくる。
 足取りの遅さからして、慌てて帰ってきたわけではなさそうだ。
「うわっ、あっつ~」
 顔をしかめながらサンダルを脱ぎ、手にしたコンビニのビニール袋を床に置く。
 ガサッと音が上がるが、それ以上に彼女の意識はクーラーのリモコンへと向けられていた。
「あ……あった」
 目を細めて探す事数秒。
 照明をつけるよりも先にクーラーのリモコンを手に取ると、女性は電源を入れる。
 軽やかな電子音と共に、クーラーは口を大きく開け、排熱をするべく大きな唸りをあげた。
「えっと……そうだ、玄関の鍵!」
 ハッとした様子で女性はそう声を上げると、慌てて玄関の方へと戻っていく。
 静かな部屋に、賑やかさが戻る。
 これもまた、夏の音の一つなのかもしれない。
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