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短編 笑い
 度重なるカメラのフラッシュ音。
 それも何度も経験したのであれば、多少は慣れが生じそうなものだが、こればかりはどうにも違ったらしい。
 人に見られるという事に慣れていないというより、人前に出る事自体にまだ慣れていないというのが本音なのかもしれない。
 そのせいか、つい表情もぎこちなくなってしまう。
 心配なのは浮かべた笑顔が、笑顔に写らなかったらどうしようという事だ。
 元々人に感情を見せるという経験に乏しい自分からすれば、笑うという行為ができた事自体が凄まじい進歩だ。
 もっとも、現在こうしてシャッターを切っている人たちからすれば、どうでもよいことなのだろうが。
 嫌な顔ひとつであっても、絶好の被写体に仕上げる彼らのことだ、笑顔で軽くいなすのが得策だ。
 ……まぁ、先輩からの受け売りなんだけど。
 後はできるだけボロを出さないようにしながらこの場を去る事さえできればいい。
 内心、不安で仕方がなかったが、それを面に出さないのは昔からずっとやり続けてきたことだから、難しくはなかった。
 フラッシュとシャッター音が小さくなり、そして消え去ったところでふと足を止める。
 そう、自分は注目されている存在だったはずだ。
 それなのに、たった数十メートル動いただけで一般人に逆戻りだ。
 別に、嬉しかったわけではない。
 むしろ煩わしかったり、迷惑とも思う事もあった。
 それなのに、どうしてか異様に寂しい。
 これは今まで自分たしてきたことの報いなのだろうか。
 注目されることに、知らず知らずのうちに慣れすぎてきているのかもしれない。
 自分の中に生まれた矛盾に、不意に笑いが込み上げてくる。
 それは、先ほど浮かべたぎこちない笑顔などではなく、嘲笑。
 自分の惨めさを、自分で笑ったときに生まれる、蔑みの笑いだった。
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