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短編 とあるビルの3階で
 継続していた作業を止めて、ふと顔を上げる。
 特別、用事を思い出しただとか、誰かに声をかけられただとか、そういうわけではない。
 ただ何かが起こりそうな妙な直感が働いてのことだった。
 そういう予想というのは、大抵は当たるものであって、今回もその例には漏れなさそうだ。
 立ち上がる同僚たち。
 職場の窓や備品が音を立てて細かに震え始める。
 まだ足元に変化は感じられない。
 しかし、それがもうじきやってくるのは間違いなかった。
 セオリー通りであるなら、ここで机の下であったり、落下物のない個所へ移動するなりすればよいのだが、不思議なものでその場から動くことはできなかった。
 身体が硬直したみたいに動かない。
 それは決して恐怖からくるものではなかった。
 どちらかというと、驚きの感覚の方が強かったと思う。
 突然の出来事に思考が停止して、ただ電源の切れたロボットのように、あるいは糸の切れたマリオネットのように、身体が動くことを拒否していた。
 そして間もなく、大きな変化が訪れる。
 細かな震えは次第にその規模を大きくしていき、建物を破壊しそうな勢いで大きく揺れ始める。
 周囲の人々も、思い出したように頭を抱えてその場で姿勢を低くしていた。
 足元が揺れる感覚に慣れていないということもあって、立っていることもままならない。
 もしかしたら意図的ではなく、仕方なく姿勢を低くしているだけなのかもしれないが、それ以上を考慮するだけの余裕は、もうどこにも残ってはいなかった。
 頭の中に残っていたのは、早くこの揺れが、災害が過ぎ去ることに対する祈りだけだった。
 結局、揺れが鎮まったのはそれから数十秒後だった。
 幸いにも、棚が倒れたりだとか、窓が割れたりだとか、蛍光灯が落ちたりだとかいう被害はなかった。
 震度でいえば大体4から5くらいだろうか。
 いや、実際はビルの高さもあるからもう少しランクは下がるかもしれない。
 しかしながら、脱帽するのは同僚の中には何事もなかったように自らの仕事に戻っている者もいたということだ。
 気が早いというか、仕事に命を懸けているというか、自分には到底できないことをやっているようで、妙に感心してしまう。
 ……なんて手を止めている場合ではない。
 周りの同僚は皆自分の作業に戻り始めている。
 自分も机の周りを整理して、作業に戻らなくては。
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