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短編 この島で生き延びて
 水平線の彼方に日が沈む。
 その様子を眺めるのはボロボロに擦りきれた軍服を着た、二人組の老兵。
 茜色に染まった空を鏡映しにした海面も、夕陽と同じように赤々と燃えている。
 今日も一日が終わる。
 それが、老兵が感じ得た唯一の印象だった。
 寂しいとか、安心したとか、そのような普遍的な感情は、とうの昔に置き去ってきた。
 耳を澄ませて敵襲がないことを確認しながら、味方の援護をひたすらに待ち続ける。
 独りなら、きっとこんなに長い間こんな場所に居られなかっただろう。
 背後に鬱蒼と生い茂るのは、南国の樹木たち。
 ジャングルと言っても差し支えない緑の迷路がそこにあった。
 老兵は互いに目と目で合図をすると、小さく頷きジャングルの中へと足を踏み入れる。
 声はかろうじては出せる。
 だが、無駄話に興じていては、相手に徒に居場所を知らせてしまう。
 だから、会話は最小限に留めようと決めた。
 もっとも、それすら何年前だったのか――いや、何十年前だったのか忘れてしまったが。
 今晩の食事は果物か、それとも魚の干物か。
 火を焚くことは許されない。
 これも煙で居場所を知られてしまうが故の取り決めだ。
 今日を生き抜くこと。
 そうすれば、いつかはこの戦いに勝利し――故郷へ帰ることができるのだ。
 すっかり濁ってしまった自らの瞳を擦りつつ、静寂が支配を強める木々の狭間に身を縮ませる。
 日が暮れれば、この場所も暗闇に包まれる。
 そうすれば、唯一の光源は上空に広がる星空ばかり。
 温暖な気候のお陰で、故郷ほど寒さは感じないが、それでも身体は冷える。
 老兵は息をひそめながら、相方の合図を待った。
 それは部隊が壊滅し、本国との一切の連絡が途絶えた時に考えた考え。
 互いに生きていることを確認するためのものだった。
 しかし、待てども待てども合図は来ない。
 もしかして、やられたのだろうか。
 しかし、銃撃や叫び声といった類のものは聞こえなかった。
 体調でも崩したりしたのだろうか。
 それとも――。
 死という可能性が脳裏に浮かぶが、それを振り払う。
 それはまだ、考えたくはなかった。
 全てを受け入れるのは、日が昇ってからでよい。
 そう自分に言い聞かせながら、老兵は美しく輝き始めた一番星をずっと眺め続けた。
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 水平線の彼方に日が沈む。 その様子を眺めるのはボロボロに擦りきれた軍服を着た、二人組の老兵。 茜
2012/11/18(日) 17:45:25 | まっとめBLOG速報
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